親の背中を見て育った子どもたちも、いずれ人生の折り返し地点を迎えます。かつて強かった親たちも少しずつ変化し、何気ない日常の出来事ややりとりのなかに、時として目を背けたくなる現実が顔をのぞかせることがあります。
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高齢者の4人に1人が認知症…些細な変化に気づくことができるか?

実は、佐藤さんのように「しっかりしているように見える」高齢者でも、初期の認知症を発症していることは珍しくありません。厚生労働省の資料によると、2022年、認知症の65歳以上の有病率は12.3%。軽度認知障害15.5%も合わせると27.8%と、高齢者の4人に1人は認知症という計算になります。

 

高齢者における認知症と軽度認知障害の有病率は、2025年にそれぞれ12.9%、15.4%、2040年には14.9%、15.6%になると推計されています。

 

また、認知症の進行は人によって大きく異なり、「まだら認知症」と呼ばれるように、ある機能は正常でも、別の部分で急激に衰えが現れることもあります。佐藤さんのように日常生活に大きな支障が出ていなければ、本人も周囲も「年のせいかな」と軽視してしまうことも少なくありません。明美さんが実家の冷蔵庫に貼られた大量のメモに違和感を覚えたのは、「前に来たときは、こんなことなかったのに」という些細な「違和感」。家族だからこそ気づけるサインだったといえるでしょう。

 

「父は、ずっと強い人でした。家族の誰よりもしっかりしていて、決して弱音を吐かない人だったのです。それが認知症かもしれないとは言い出せない原因になっていたのかもしれません」

 

幸い、今回の出来事を機に佐藤さんは病院で検査を受け、軽度認知障害(MCI)と診断されました。初期段階で発見できたことで、薬物治療と生活習慣の見直しによって進行を遅らせることができると説明されました。

 

「早めに気づけたことは、不幸中の幸いだったと思っています。でも、父の涙を二度と見たくない。これからは定期的に帰省して、できるだけ一緒に過ごす時間を作っていきたいと思っています」

 

家族の「変化」に敏感になること。誰かが「いつもと違う」と思ったその瞬間が、支援の第一歩になるのです。

 

[参考資料]

厚生労働省『認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計』

政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』