人生の大きな決断である結婚。それは結婚する2人の問題ではありますが、互いの育った環境や家族との関係などが複雑に絡み合い、ときにそれは、未来を大きく揺るがすこともあるようです。
〈年収550万円〉32歳男性、結婚の挨拶に行ったら「門構えが城」…〈大企業の重役〉だという彼女の父を前に、結婚の覚悟が揺らいだ日 (※写真はイメージです/PIXTA)

「お金なんて関係ない」は本心か?婚約者に広がる疑念

婚約後。最初の難関となる、女性側の親への挨拶。美咲さんは「うち、ちょっとお父さんが厳しいかもしれないけど、大丈夫だから」とだけ言っていました。田中さんはこの日のためにスーツを新調し、老舗和菓子店の羊羹を手土産に購入。準備万端で臨みました。

 

電車を乗り継ぎ、都心から少し離れた閑静な住宅街。美咲さんに教えられた住所の前に立った田中さんは、自分の目を疑います。そこにあったのは、家というより「屋敷」だった。重厚な鉄の門がそびえ、その両脇には手入れの行き届いた植木が塀のように連なっている――まるで時代劇に出てくる城。インターホンを押す指が震えます。

 

門が静かに開き、現れたのは上品な雰囲気の女性。美咲さんの母親でした。案内され、長いアプローチを抜けて玄関の扉を開けると、そこにはホテルのロビーかと見紛うような空間。磨き上げられた大理石の床、天井から吊るされた豪奢なシャンデリア。リビングに通されると、革張りの巨大なソファが鎮座し、壁には見たこともないような大きな絵画が飾られています。

 

「お父さん、彼が田中亮太さん」

 

美咲さんの声で我に返ると、部屋の奥で1人の男性が立ち上がりました。がっしりとした体躯に、隙のないスーツの着こなし。鋭い眼光が、値踏みするように田中さんを射抜きます。美咲さんの父、高橋健三さん(55歳・仮名)です。

 

田中さん、ここからの記憶はうろ覚え。ただ、美咲さんの父である健三さんは誰もが知る大企業の重役で、家はいわゆる名家だということでした。また話が、海外に赴任していたころの思い出とか、趣味だという骨董品のこととか、週末には会員になっているゴルフ倶楽部に通っているとか……すべてが田中さんにとって別世界だったことだけは覚えています。

 

実は美咲はお嬢様?

実はこれって逆玉?

 

さらに1つ疑念が浮かびます。「お金なんて関係ない」と言ってくれた美咲さん、それは本心なんだろうか……というものです。田中さん、家柄が違い過ぎて疑心暗鬼になっていました。

 

後日、田中さんは自分の第一印象がどうだったかを美咲さんに尋ねました。「あまりに緊張していたから、『頼りなさそうだけど大丈夫か?』と言われちゃった。でも『お父さんが怖い顔しているから仕方がないでしょ』と反論しておいたから大丈夫」とあっけらかんと答える美咲さんに、さらに結婚への自信をなくしたとか。

 

紆余曲折ありましたが、後日談として、田中さん曰く、結婚に向けては順調に進んでいるとか。一方で1つ決心したことがあるといいます。それは転職で年収アップすること。「お金じゃないとは言ってくれているものの、劣等感を抱いたままというのは嫌なので」と田中さん。結婚準備とともに、転職活動も精力的にこなしているといいます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

内閣府『令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査』