どれほど高収入であっても、計画的な貯蓄や万一に備えての保険加入など、予測できない事態に備えておきたいものです。夫婦間だけでなく子どもも含めた「お金」に対する意識共有も欠かせないでしょう。本記事では森和彦さん(仮名)の事例とともに、定年がみえてきたころからの老後破産リスクについて、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。
ハア…都内高級タワマンからキラキラ有名私大に通う長男・長女。年収2,000万円の58歳パイロット父からため息交じりに告げられた「無慈悲な現実」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

予想外に長期化する住宅ローンと青天井の教育費

和彦さんがようやく老後生活を真剣に考え始めたのは、55歳を過ぎたころ。そこで突きつけられた現実は、想像以上に厳しかったのです。

 

住宅ローンは、一部繰上げ返済をしているものの、60歳時点であと15年残っています。残額は2,500万円。退職金で完済することができますが、その場合、手元に残る資金はわずか1,000万円になってしまいます。さらに悩ましいのは、2人の子どもたちの教育費です。長男は大学院への進学を希望し、長女は司法試験の勉強に専念するため、アルバイトは辞めるといっています。追加で必要となる教育費は青天井でしょう。企業の人手不足が深刻となるなか、和彦さんの勤務先では、定年後も再雇用として働ける見通しです。しかし、身体検査基準が厳しくなるため、許可が下りなければ、パイロットを辞めざるを得ません。

 

いままでどおりの生活を続けていけば、老後資金がほとんど増えないのは明らかです。慌てて生活費を見直そうにも、長年にわたって続いている生活習慣、一度上がった生活水準を下げるのは容易なことではありません。

追い打ちをかけた妻の病気

「少しずつでも生活の見直しを」と努力を始めた矢先、追い打ちをかける出来事が起こりました。幸子さんが体調不良を訴え、検査を受けることになったのです。検査の結果、幸い命に別状はないものの、手術と長期の治療が必要な病状であることがわかりました。

 

高額療養費制度があるとはいえ、個室料や自宅から病院までのタクシー代など、自己負担額は決して少ない額ではありません。先進医療など保険適用外の治療を選択することになれば、どれだけのお金が必要になるのか想像もつきません。

 

「まさか自分が、病気になるなんて……」幸子さんは、言葉を失いました。

 

厚生労働省は、年齢階級ごとの人口一人当たりの国民医療費を調査・報告しています。令和4(2022)年度の一人当たりの医療費を参考までにみてみましょう。この金額は、患者の自己負担や健康保険からの給付などによって賄われます。

 

出所:厚生労働省 令和4(2022)年度 国民医療費の概況 より筆者加工作成
[図表]令和4(2022)年度の一人当たりの医療費 出所:厚生労働省 令和4(2022)年度 国民医療費の概況 より筆者加工作成

 

男性は40代から、女性は50代から医療費の増加額が大きくなっていることがわかります。生活習慣病などを発症しやすくなるのです。特に、それまで健康に自信のあった人は、見過しがちなことかもしれません。

 

子どもたちはまだ学生です。経済的な援助を求めることはできません。加えて、日常の食事の用意や日用品などの買い物を任せたことはほとんどありませんでした。病院への送り迎えを頼むことも難しいでしょう。医療費以外にも支出が増えていくことが容易に予想がつきます。和彦さんと幸子さんは、あっという間に貯蓄が底をつくだろうと嘆きました。