年を重ね、相続や健康への不安が大きくなると、住み慣れた家からの転居や施設への入居を考える機会が増えるでしょう。なかでも老人ホームは「終の棲家」として有力な選択肢ですが、だからこそ多くの人が「後悔しないように」と入念に情報収集をします。しかし、それでもなお、入居後に想定外の事態に直面し、困惑してしまうケースは後を絶ちません。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、老人ホーム入居後に起こり得るトラブルについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説していきます。
後悔したくなかったのに…年金30万円・資産5億円、72歳夫婦「万全を期して準備した」高級老人ホーム入居で“想定外の事態”。シェフのレストランにも豪華プールにも行けず、自室に隠れる理由【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の意地悪

高齢者だからといっても、みんな大人しくて優しい、とはいえないようです。「年を取れば取るほどその人の本性があらわになる」、という人もいます。自分では判断できずに意地悪な行動をとってしまう場合もあるでしょう。近ごろのお年寄りは非常に元気ですから、なかには手に負えないような人もいるようです。施設内では若いスタッフの若さに嫉妬してわざとつっかかってくる人もいると聞きます。

 

医学・心理学の世界では、高齢者の「意地悪」と見える振る舞いには、いくつかの要因が関わっている可能性があるようです。

 

1.加齢による脳機能の変化

●前頭葉の萎縮:感情の抑制や社会的判断を司る前頭葉の機能が、加齢に伴って低下することがあり、衝動的・攻撃的な言動が出やすくなるケース。

 

●認知症の影響:アルツハイマー型や前頭側頭型認知症では、思いやりや共感の能力が低下し、周囲への配慮が欠ける行動を取るケース。

 

2.身体的・心理的な不調

●慢性的な痛みや不快感:体の不調が続くと、どうしても気持ちがイライラしたり、周囲に当たってしまったりするケース。

 

●うつや不安症:孤独や将来への不安が防衛的・攻撃的な態度となるケース。

 

3.社会的背景と性格の変化

● 社会的役割の喪失:定年退職後、家庭内や社会的な役割が減ることで自己肯定感が下がり、他者に強く出ることで存在感を示そうとするケース。

 

●長年の性格的傾向:若いころから批判的・頑固な性格だった方が、歳を取ることでさらに強調されるケース。

Aさん夫婦のその後

たしかにしばらくするとBさんの妻からの意地悪は収まってきました。そしてなにごともなかったかのように、ある日を境に以前のように挨拶してきたり話しかけたりしてくるようになりました。

 

ですが、Aさんの妻は「私のような思いをする人を増やしてはいけない」と考え、AさんからBさんに「奥さんの気持ちを考えて、奥さんの前であまり女性に声をかけないほうがいい」とアドバイスするように頼みました。

 

その後、Bさんがどれだけ理解したかはわかりませんが、Aさん夫婦には平穏な生活が戻ってきました。

 

「あんなに事前にしっかり準備して入居したのに、入居したあとにはなにがあるかはわからないね。一時は退去も考えたけど、いまでは以前のような楽しい生活が戻ってきたのでよかったよ」と話し合ったそうです。


 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表