(※写真はイメージです/PIXTA)
仕事と介護の両立…すり減っていく心と体
5年前に父親が亡くなり、母親との二人暮らしが始まりました。さらに2年前、その母親が脳梗塞で倒れ、右半身に麻痺が残りました。幸い命に別状はなく、会話もできますが、日常生活のほとんどに介助が必要な状態です。これが、田中さんの生活を完全に変えました。
平日は、仕事と介護の両立に追われます。朝の準備に始まり、仕事中も母親のケアマネジャーやデイサービスの担当者からの電話に対応しなければなりません。会社にいる間はなんとか仕事に集中しようとしますが、頭の片隅には常に母親のことがあり、気が休まる時がありません。定時で退社しても、スーパーに寄り、夕食の準備、食事の介助、入浴の介助、そして就寝の準備と、すべてが終わる頃には夜9時を過ぎています。そこからが、ようやく自分の時間。しかし、疲労困憊で何かをする気力も残ってはいません。
休日も、母親の世話や溜まった家事で一日が終わります。友人と会ったり、趣味に時間を使ったりすることはありません。そもそもお金がなく、日常生活以外で何かすることはないのです。社会とのつながりは、職場と介護サービスの担当者だけ。そんな生活が2年ほど続き、田中さんの心と体は確実にすり減っていきました。
総務省統計局『令和4年就業構造基本調査』によると、介護している人は628万人。そのうち、仕事をしている人は364万人で、正社員は156万人、非正規社員は141万人、パートは82万人。そのようななか、仕事と介護の両立を図れず、仕事を辞める人は毎年7万~10万人ほどいます。
「もし、俺が倒れたら、母はどうなるんだろう」。そんな不安とともに、 「俺の老後は一体どうなってしまうんだろう」と自分の将来の不安も押し寄せます。
自分のことでも精いっぱいの氷河期世代に迫る、親の介護問題。なぜこれほどまでに自分は追い詰められなければならないのか――答えの出ない問いが、田中さんの頭の中をぐるぐると回り続けます。
[参考資料]
内閣官房『就職氷河期世代支援に関する行動計画2021』
総務省統計局『令和4年就業構造基本調査』