病気やケガで働けなくなった現役世代を支える「障害年金」。しかし、その受給には「初診日」を証明するという高いハードルがあります。ある男性のケースを見ていきます。
54歳男性「たった1枚の紙」で年金が受け取れない衝撃。「障害年金」初診日ルールの隠れた落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

「初診日主義」が生む構造的リスク

都内のIT企業に勤務していた佐藤健一さん(54歳・仮名)。3年前に手足の震えや激しい倦怠感を覚え、精密検査の結果、指定難病のパーキンソン病と診断されました。症状は徐々に進行し、現在は長時間の歩行が困難となり、退職を余儀なくされたとのことです。

 

生活の支えとして障害年金の申請を検討しましたが、年金事務所で説明されたのは「初診日の証明が必要」という原則でした。

 

障害年金制度は「初診日主義」を採っています。これは、障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日(初診日)を特定し、その時点でどの年金制度に加入していたか、保険料納付要件を満たしていたかを確認する仕組みです。

 

佐藤さんには、20年前に一度、体調不良で近所のクリニックを受診した記憶がありました。当時は「過労」と診断され、数回の通院で終わっています。窓口では、「現在の病状と医学的に関連があると判断されれば、その受診日が初診日となる可能性がある」と説明を受けました。

そこで当時のクリニックに問い合わせをしてみましたが、返ってきたのは驚きの回答でした。
「カルテの法定保存期間は5年です。20年前の記録は残っていません」

 

医師法第24条では、診療録の保存期間は原則5年間と定められています。医療機関が法令に従って記録を廃棄していれば、数十年前の受診内容を証明することは現実的に困難なのです。

 

厚生労働省は、カルテが残っていない場合の代替資料として、診察券やお薬手帳、健康診断記録、第三者の証言などを例示しています。しかし、客観的な医証に比べれば立証のハードルは高く、申請者にとって負担が大きいのが実情です。

 

佐藤さんは当時の資料を探しましたが、有効な証拠は見つからなかったといいます。
「自分がこれほど体を動かせなくなっているのは事実なのに、過去を証明できなければ受給が難しいと言われ、頭が真っ白になりました」

 

佐藤さんは、当時の受診記録がないなか、後の診療記録や主治医の意見書、家族や職場の証言などを積み上げて申請。結果、初診日の特定は形式的に20年前と認められ、無事に障害年金の受給が決定しました。