給与明細をみて、愕然とした経験はないだろうか。念願の昇給を果たしたはずなのに、手取り額はなぜか増えていない、むしろ減っている……。これは、一部の特別な人の話ではない。社会保険料や税金の負担増という「見えない増税」が、多くの若者の希望を打ち砕いている現実だ。さらに、多くの若者が抱える奨学金の返済が、その肩に重くのしかかる。未来のために借りたはずのお金が、未来の可能性を奪う足枷になる。この理不尽な構造に、いまこそ向き合うべき時ではないか。アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が提言する。
昇格をすぐさま地元の母にLINE…東京で暮らす「年収490万円の27歳息子」、大はしゃぎも一転。ボーナスをみて愕然、再び母にLINEした理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「がんばっても報われない」を変えるために

昇給しても手取りが減り、奨学金返済に追われる若者たち――。そんな現実を「仕方ない」と放置してよいはずがない。特に深刻なのは、「努力しても報われない」という感覚が広がることだ。この感覚は若者のモチベーションを低下させ、やがて社会全体の活力にも影響をおよぼしかねない。未来を描ける社会、挑戦できる社会をつくるために求められるのは、「若者の経済的基盤を整える」という視点ではなかろうか。

 

その一つの解決策として、注目されるのは「奨学金返還支援制度」だ。これは、企業が従業員の奨学金返済の一部を支援する制度である。企業側にとっては、若手人材の確保・定着に期待ができ、従業員にとっては経済的・心理的負担が軽減されるのだ。

 

実際に、奨学金返還支援制度を導入する企業は年々増加しており、制度開始の2021年から約3年の令和6年10月末時点では、全国で2,587社が導入している。

 

また、本制度は企業が日本学生支援機構に直接送金する仕組みであるため、支援額は従業員の報酬とはみなされず、所得税や社会保険料が課されることがない。こうした制度設計により、従業員の生活を実質的に支える「福利厚生」としての認知も着実に広まりつつある。

 

こうした企業による支援の広がりは、若者の将来に対する不安を和らげ、仕事への意欲や定着にもつながる好循環を生む。これからの日本社会には、返還支援制度のように、若者の経済的負担を“社会全体で支える”仕組みが必要だ。

 

いまの若者は、「自分らしく働きたい」「やりたいことに挑戦したい」という強い意識を持っている。彼らが希望を持ち、安心して暮らせる社会こそが、健全な消費活動と経済活性化の土台になる。奨学金問題は、単なる「教育費」の問題ではない。若者の未来と、日本社会の持続可能性に直結する課題なのだ。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者