増える外国人労働者と変わる賃貸需要

日本の賃貸市場における最大の変化の1つが、外国人の流入です。20年、25年前の日本では、年間に日本を訪れる外国人観光客の数はおよそ500万人程度でした。それが今では4,000万人に達し、今後は5,000万人、あるいは6,000万人にもなると見込まれています。
この大きな流れのなかで、「旅行先としての日本」から「移住先としての日本」へと、捉え方が変化している外国人が確実に増えてきています。これは、日本人がハワイに何度も訪れるうちに「ここに住めたらいいな」と思う感覚と近いのではないかと感じます。
実際、日本の魅力は世界に広まりつつあります。治安の良さ、清潔さ、食文化の豊かさ、そして日本人の丁寧な接客や対応。そうした魅力に惹かれた人たちが、ただの旅行ではなく「ここで働きたい」「ここに住みたい」と考えるようになるのは、自然な流れかもしれません。
統計を見ると、東京では外国人の純増が年間で5万人程度となっています。東京の人口がおよそ1,000万人とすると、そのうちの0.5%が毎年外国人によって増えているということになります。人口統計における0.5%の純増は、決して小さな数字ではありません。
そして、ここが重要なポイントですが、増加した外国人のほぼすべてが「賃貸住宅」に流れ込んできます。なぜなら日本では外国籍の方が住宅ローンを組めるケースは限られており、少なくとも永住権を持っているなど、一定の条件を満たしている必要があります。つまり、日本で働こうとする外国人のほとんどは、まずどこかに「借りて住む」必要があるわけです。
このような事情から、外国人労働者の増加は、日本の賃貸市場における需要を大きく押し上げています。そして、その需要増に対して供給が追いついていない現状が、家賃の上昇圧力を強めているのです。
家賃滞納リスクとビジネスチャンス

ところが現場では、外国人に物件を貸すことに慎重な姿勢を取る不動産会社や大家さんがまだまだ多く存在します。背景には、家賃の未回収リスクに対する不安があるのだと思います。家賃というのは、個人の収入に占める割合が大きいため、一度でも滞納が始まると、それを取り戻すのが非常に難しいという現実があります。
例えば、月給30万円の方が毎月8万円の家賃を支払っていたとしましょう。1ヵ月滞納したら、翌月は16万円が必要になります。これは収入の半分以上です。さらに翌月も払えなければ24万円。こうなってしまうと、もう追いつけません。滞納が連鎖していくなかで、最終的には「もう無理だ」となってしまう。そんなケースは珍しくないのです。
しかも、家賃を払わなかったからといって、すぐに退去を求めるのは法的にも難しい部分があります。飲み物を買う時に100円を払わなければ水は手に入りませんが、住宅は一度住んでしまうと、数ヵ月分の家賃が未払いになっても、簡単に出てもらうわけにはいかないのです。そのための法的手続きや裁判が必要になり、弁護士に頼むコストも発生します。
だからこそ、「外国人に貸すには日本人の保証人が必要」という条件を設けるケースが非常に多いのです。しかし、これは裏を返せば、外国人にスムーズに貸し出せる体制を持つ会社には大きなビジネスチャンスがあるということでもあります。
実際、GTN(グローバルトラストネットワークス)のように外国人向けの家賃保証を専門に扱う会社は、既にその分野で高い競争力を発揮しています。今後も外国人の流入が増えることを考えれば、こうした企業のような後発プレイヤーがどんどん参入してくる可能性も高いと見ています。
また、設備面でも見直しが必要です。日本では浴槽付きのお風呂が一般的ですが、外国人の多くはシャワーだけで十分という価値観を持っている場合もあります。あるいは、家の中だけで完結する暮らしではなく、共有のラウンジやコワーキングスペースを備えた住環境に価値を見出す人も多いでしょう。
金利上昇と賃貸マーケットの構造変化

次に、金利の観点から賃貸市場の動きを見ていきたいと思います。「金利が上がると不動産業界は厳しくなる」と言われることがありますが、それは確かに一面では正しいです。物件を建てたり購入したりする際には、多くの場合で資金を借り入れるため、金利が上昇するとコストが上がります。
しかし、これは裏を返せば「買えない人が増える」ことを意味します。金利が低かった時代には、ほとんどタダのような条件で住宅ローンを組むことができましたが、今はそうはいきません。金利が上がれば、月々の返済負担も増える。すると、「今は買わずに賃貸でいいや」という判断をする人が増えてくるのです。
アメリカではすでにその傾向が顕著に表れています。住宅ローン金利の急上昇を受けて家の購入を見送る人が続出し、その分、賃貸住宅の需要が急増。結果として家賃が急激に上昇しました。今の日本でも、同じような構造が見え始めています。
このような環境では、資金調達力のある人が有利になるという現象が起こります。自己資金が豊富だったり、依然として安い金利で資金を引けるプレイヤーであれば、高い家賃で貸し出して収益を得ることができます。結果として、「強い人がより強くなる」構造が形成されていくのです。
一方で、これから物件を買おうとする人にとっては、金利の上昇は明確なハードルです。少し金利が上がるだけでローンの返済額が跳ね上がり、購入を断念するというケースも少なくありません。そうなると、ますます賃貸市場に人が流れ込み、家賃はさらに上がっていく可能性があるといえるのではないでしょうか。
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株式会社アーキテクト・ディベロッパー
代表取締役社長 木本 啓紀
ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

