最近なにかと話題の「残価設定型クレジット(通称:残クレ)」。実のところ、仕組みをきちんと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。そこで今回、高級車に憧れを抱く41歳サラリーマンの事例を通して、「残クレ」の仕組みと注意点をみていきましょう。FP Office株式会社の宮本誠之FPが解説します。※車両価格や設定金利、登場人物の情報等は一部変更しています。
悔やんでいます…「残クレ」で念願のアルファードを手に入れた年収550万円・41歳サラリーマンの末路【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

“アルファードのある生活”を満喫したAさんの5年後

5年後、ディーラーから届いた「残価350万円のご案内」という書類を見て、Aさんははじめて事の重大さに気づきました。5年間、月々4万円を払い続けてきた達成感とは裏腹に、目の前には350万円という巨額の請求が突きつけられたのです。

 

Aさんは頭を抱えました。5年前と比べて給与は増えていたものの、子どもの教育費などもあり新たな高額ローンを組むのは困難です。さらに追い打ちをかけるように、ディーラーから「走行距離が規定を超過しているため、追加料金が発生します」という連絡が入りました。Aさんはアルファードを手にした嬉しさから、以前の車よりも高頻度で車を使用していたのです。

 

「こんな高額な残債が残るなんて聞いてない!  どうするつもり?」

 

妻にも激怒され、Aさんは立場がありません。たくさんの幸せな思い出を作ってくれたアルファードは、いつしか家庭の不和の象徴となってしまいました。

断腸の思いでアルファードを売却

途方に暮れたAさんは、家計改善の助言を受けるためファイナンシャルプランナー(FP)に相談することに。

 

Aさんから一連の経緯を聞いたFPは、家計診断を実施。その結果を受けて、残価の一括支払いや再度の高額ローンは現実的ではないことを伝えました。

 

当初は「家族の思い出が詰まっている」と売却を渋っていたAさんですが、アルファードの買い取り相場を知ったAさんは、断腸の思いで売却を決心。残債との差額を頭金にして、新しい車に乗り換えたいと話します。そこでFPは、新たな車を購入する前に、まずは家計の無駄な支出を徹底的に削減して、貯蓄を増やすことが最優先だと伝えました。

 

その結果、Aさんは公共交通機関やレンタカーを上手に活用しながら、まずは家計の立て直しに注力することに。

残クレの「甘い誘惑」に要注意

Aさんが契約していた残クレの詳細は下記のとおりです。

 

■車両価格:700万円

・頭金:100万円

・返済額:月4万円(5年/金利1.5%込み)

・残価:350万円

 

「月々4万円で憧れの車が手に入る」と考えたAさんは、冷静さを失ったまま契約書にサインしました。

 

しかし、実際に支払うのは頭金100万円+(月4万円×60回)=340万円です。この月4万円には金利(年1.5%)が含まれており、実際にはローン部分(5年間で約20万円前後)の利息が上乗せされています。

 

そして、結局のところ、Aさんは5年間で340万円を支払っても、車を所有したことにはなりません。350万円の残債が残った状態です。もし、この車を買い取ろうとすれば、5年間で支払った340万円に残債350万円を加えた690万円を支払うことになります。さらに、残価を含めた総支払額には実際には金利分も加算されるため、負担はより大きくなるのです。

 

残クレはが支払い方法を多様化させる便利な支払い方法であることは間違いありません。しかし、その裏には将来的に大きな負担を負う可能性が潜んでいます。

 

車を購入する際は、目先の月々の支払額だけでなく、総支払額や将来の残価、そして自身のライフプランを総合的に考慮することが重要です。

 

安易な甘い誘惑に惑わされず、冷静な判断と綿密なライフプランニングが、後悔のないカーライフを送るための鍵となるでしょう。

 

その車選び、あなたの家計にとって本当に最適な選択ですか?

 

 

FP Office 株式会社
ファイナンシャル・プランナー
宮本 誠之