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公務員に何ができる…転職市場の厳しい洗礼
本格的に転職活動を開始した田中さん。長年の教員経験で培ったコミュニケーション能力や、学校運営で培ってきたマネジメント能力には、それなりの自信がありました。きっと、民間企業でも活躍できるはずと考えていたといいます。
民間企業で働く大学時代の旧友から転職活動の進め方のアドバイスをもらい、まずは転職サービスに登録。いくつかの企業を紹介してもらい、そのなかから数社、書類審査も通過。面接にこぎつけます。しかし、そこで田中さんは、教育現場とはまったく違う、厳しい現実に直面することになるのです。
それは中堅のコンサルティング会社での面接でのことでした。面接官は同年代だと思われる男性。面接が進むなか、面接官から衝撃的な言葉が投げかけられます。
「田中さんはずっと学校の先生をされていたからなのか、ビジネス感覚がないのではないでしょうか」
「会社と学校は違うので、そのあたりをもう少し理解されたほうがいい」
予想していなかったわけではありません。しかし、これほどまでに直接的な、ある種の軽蔑を込めた言葉を投げかけられるとは、思ってもみませんでした。田中さんは必死に食い下がります。学校運営で培ったマネジメントスキル、多様な保護者と対話してきたコミュニケーション能力、教材作成で培ったプレゼンテーション能力――民間企業でも通用するはずのスキルを、懸命にアピールしました。しかし、面接官の反応は芳しくありません。
「弊社で田中さんが活躍されているイメージが、どうしてもできません」
面接後、田中さんは込み上げてくる悔しさと絶望感に、唇を噛みしめました。教員という仕事に誇りを持ってきた20年間が、すべて否定されたように感じたのです。
その後も、複数社、面接にこぎつけるも「公務員のキャリアは民間企業では通用しない」と一蹴され続けたといいます。エージェントからも「若手教員の民間企業への転職は多いが、40代となると厳しい」という現実をまた突きつけられたとか。そこで勧められたのが「公務員という立場でのキャリアチェンジ」。
「たとえば市役所とか……確かに、そういうところのほうが、教員のキャリアが生きるのではないか」
そう考えた田中さん。早速申し込んでみるも、なかなか書類審査が通らない日々が続きました。「倍率が高い。1名採用のところに100名以上の申し込みがあるので……」とエージェント。厳しい現実に、眩暈を覚えたといいます。
「キャリアチェンジを考えるには遅すぎたのかもしれない……」そう考え、転職を諦めた田中さん。当時を振り返り、「キャリアをゼロから見つめ直すきっかけになってよかった。教師の道を究めるしかないと、考えられるようになった」といいます。
[参考資料]
文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)について」