見栄や憧れから、収入に見合わない暮らしをしてしまうとじわじわと首が締まっていきます。しかし「成功者の象徴」タワーマンションにはそれだけの魅力があるようで……。本記事ではAさん夫妻の事例とともに、高所得者が陥りがちな住宅ローン計画の落とし穴について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
すべては白金のタワマンを守るため…「手取り月115万円」一見裕福な暮らしも、実は「住宅ローン破綻」の衝撃。30代パワーカップルに銀行から〈身震いする通知〉が届くまで 【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

ついに迎えた“住宅ローン破綻”

しかし、その綱渡りのロープは、二つの“想定外”によって、あっけなく切れてしまいました。 

 

一つは、夫Aさんのボーナスカット。担当していた大型プロジェクトが中断し、業績評価が直撃。前年比で150万円もの減額となりました。

 

「評価が厳しい会社なのは覚悟のうえでしたが、ここまで大きな影響が出るとは……。完全に計画が崩れてしまいました」

 

そして二つ目が、Bさんの育児休業の延長。1歳での復職を予定していましたが、娘の体調が優れず、医師から集団生活を少し見合わせるよう勧められました。

 

「娘の健康が第一。でも、『じゃあ育休延長ね』で済むほど、経済的な余裕はありませんでした」 

 

世帯収入が約30%減少し、キャッシュフローは一気に赤字へ転落。銀行からの「支払い遅延の再通知」が、最後の決断を迫りました。このままでは、信用情報に傷がつく——。身震いした二人は、ようやく重い腰を上げさせました。

 

不動産価格の上昇もあり、売却価格は当初の購入価格をわずかに上回りましたが、ローン残債を差し引くと手元に残った現金は限られており、家計の立て直しには不安が残る状況でした。

 

「ふとしたときに、あの部屋からの夜景を思い出すことはあります。でも、不思議と後悔はないんです。あのままだったら、きっと夫婦関係も壊れていたから」

 

成功の象徴だったタワマンは、静かに二人のもとを去っていきました。

高い勉強代を払って手に入れた「真っ当な金銭感覚」

白金のタワーマンションを手放したあと、夫婦は都内の築15年の賃貸マンション(2LDK・家賃18万円)に引っ越しました。コンシェルジュもジムもない。けれど、「ようやく心を落ち着けて呼吸ができるようになった」と二人は口をそろえていいます。

 

引っ越し後、真っ先に取り組んだのは家計の見直しでした。 

 

・車は1台手放し、必要なときだけカーシェアを利用 

・娘の英語教室は継続しつつも、インター通学は一時保留 

・外食は月1回の“お楽しみ”に 

・家計簿アプリを夫婦で共有し、月1で「家計ミーティング」実施 

 

「正直、住まいも車も“誰かにどう見られるか”を意識していました。でもいまは、『これは私たちにとって本当に価値があるか?』を夫婦で話し合えるようになったんです」

 

この生活に慣れるまでには時間がかかりましたが、「見栄を張らない」という一点に立ち返ることで、夫婦間の会話や家族の時間はむしろ増えたといいます。 

 

その気づきは、二人の人生観を変えました。“いい暮らし”とは、肩書きや場所ではない。それよりも、「なにかあったときに、自由に選択できる“心の余白”があることのほうが、よほど贅沢だ」と。

 

「白金のタワマンは高い勉強代だったと考えています」