「もう無理なの…」娘が下した、母には残酷な決断
会社でも重要なポストに就く美紀さん。仕事をないがしろにすることはできません。
「このままでは、母だけでなく自分も共倒れになってしまう――」
日に日に憔悴していく美紀さんを見て、夫も心配を募らせていました。心身ともに限界を感じていたある週末の昼下がり、美紀さんは意を決して母と向き合いました。
「お母さん、大事な話があるの」
いつになく真剣な娘の表情に、良子さんは少し戸惑った様子を見せながらも、「なあに?」と促します。美紀さんは、震える声を抑えながら、ゆっくりと、しかしはっきりと伝えました。
「お母さん、もう家でみるのは限界なの。だから……施設を探そうと思う」
その言葉を聞いた瞬間、良子さんの顔から表情が消えました。「施設? 何を冗談を」。信じられないといった様子で、娘の顔を見つめます。
「冗談じゃないわ。毎日仕事から帰ってきて、家のことと、お母さんのことと……。もう私の体も心もボロボロなの。夜も眠れないし、仕事にも集中できない。このままじゃ、私が先に倒れちゃう」
良子さんは呆然としています。「私がいると、あなたは迷惑なの? 親の面倒をみるのは、子どもとして当然のことじゃない?」。母の言葉は、かつて美紀さん自身も「そうあるべきだ」と思っていた価値観そのものでした。しかし、今の美紀さんには、その「当然」が何よりも重く、そして残酷に響きます。
株式会社AZWAYが行った調査によると、「親の介護は誰がすべきか」の問いに対して、「自分」と回答したのが57.4%。「兄弟姉妹」30.2%、「施設」は10.2%と続きました。自分かどうかはさておき、「親の面倒は家族がみる」という風潮は、まだまだ根深いもの。そのようななか美紀さんが下した決断は、特に母・良子さんにとっては残酷な宣告に聞こえたかもしれません。しかし、これは美紀さん自身の人生を守るには、仕方がない決断だったのです。
「親の面倒をみたい」という気持ちと、「自分の生活を守りたい」という現実。その狭間で多くの人が悩み、苦しんでいます。
[参考資料]
総務省統計局『令和4年就業構造基本調査』