「貧困」と聞くと、食べるものにも困るような状況を思い浮かべるかもしれません。それは「絶対的貧困」と呼ばれ、生命の維持さえ困難な状態を指します。しかし現代の日本で深刻化しているのは、それとは異なる「相対的貧困」です。本記事では長岡FP事務所代表の長岡理知氏が、Nさんの事例とともに、隠れ貧困の実態に迫ります。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
本当はもうお金がありません…「夫の遺産1.3億円」「年金17万円」目黒の豪邸で一人暮らす77歳女性の現実。孫の進学祝いは高級ホテルで食事会・無免許なのに高級外車所有、偽りの“上流生活”を続けるワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

夫が遺した目黒の豪邸と貯蓄1億3,000万円

<事例>

Nさん 77歳

目黒区に戸建て住宅を所有

夫は6年前に他界

就職した経験なし

老齢年金 月あたり17万円

貯蓄額 550万円

固定資産税 年間約35万円

 

Nさんは77歳。目黒区の高級住宅街に大きな戸建ての自宅を所有しています。高い塀に囲まれ、ガレージのシャッターは開けっ放しで高級輸入車が停まっているのがみえます。このみるからに高級住宅という佇まいの家は、Nさんの夫が生前、新築で購入したものです。Nさんの夫、Kさんは大手メーカーの役員をしていました。若いころからひたむきに働き、出世の階段を昇りつめたのです。企業内の派閥争いも苛烈で、袋叩きに遭いながらも運よく役員になった人物のようです。

 

40代後半のときに、夫Kさんが父親から相続していた目黒区の土地に注文住宅を建てました。時代はバブル期。「土地から買うとしたらとうてい無理だった」といいますが、建物だけでも1億円という物件です。現代の相場では驚きませんが、当時としては破格の値段だったはずです。

 

引退時の年収は3,200万円。退職慰労金は6,000万円でした。夫Kさんの現役時代、妻Nさんは専業主婦。出世街道をひた走る夫はNさんの自慢でした。都会育ちで品がよく、仕事ができて収入も高い、そんな夫を自慢するあまり、周囲からは嫌われたこともあるようです。

 

妻Nさんはいつのころからか、見栄っ張りの性格が際立つようになりました。浪費が目立つようになり、質素だった家具や食器を高級品に替え、ファミリーカーだった自家用車を高級輸入車にし、高級百貨店以外では服を買わなくなりました。

 

その一方で夫の部下に横柄な態度を取ることもしばしば。夫の部下に「私の夫のためにあなたたちも頑張りましょうね」などといって、社内で一気に悪い評判が広がったこともあります。夫の部下が自分の召使いであるかのように勘違いしたのでしょう。

 

夫Kさんは現場主義の真面目な役員でした。長年の社内政治のストレスのせいでしょうか、70歳で引退した直後にガンがみつかり、その2年後には亡くなってしまいました。保険嫌いだったため死亡保険金はありませんでしたが、貯蓄は1億3,000万円が残されました。住宅ローンが高額であったこと、子供2人の留学費用がかさんだこと、所得が大きく増えたのは引退前の数年であることなどから、退職金を含めても貯蓄はさほど多くありませんでした。

 

夫Kさんの遺産の相続について、当初は息子2人が「お金には困ってないから母さんがすべて相続するといいよ。母さんが亡くなったときに残っていたらそれを僕らでわけるから」といっていました。しかし、それぞれの配偶者が強硬に反対したらしく、当初は法定相続分での相続をすることに。しかし自宅の評価額が高すぎ、法定相続分で分割すると自宅を相続する妻Nさんに現金が残らないことが判明。子供たちには法定相続分よりも少なく分割することにしました。それでも妻Nさんの相続財産は自宅と現金4,000万円でした。