「貧困」と聞くと、食べるものにも困るような状況を思い浮かべるかもしれません。それは「絶対的貧困」と呼ばれ、生命の維持さえ困難な状態を指します。しかし現代の日本で深刻化しているのは、それとは異なる「相対的貧困」です。本記事では長岡FP事務所代表の長岡理知氏が、Nさんの事例とともに、隠れ貧困の実態に迫ります。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
本当はもうお金がありません…「夫の遺産1.3億円」「年金17万円」目黒の豪邸で一人暮らす77歳女性の現実。孫の進学祝いは高級ホテルで食事会・無免許なのに高級外車所有、偽りの“上流生活”を続けるワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

4,000万円を湯水のように使う妻

金融庁の試算によると、老後に必要な貯蓄額は2,000万円とのことです。しかし妻Nさんの生活スタイルでは到底足りません。

 

妻Nさんは夫亡きあとも生活レベルを下げることができませんでした。孫の進学祝いや就職祝いとして高級ホテルでの食事会を開いては全額負担したり、自分の洋服を変わらずに高級百貨店で揃えたりと、現金が減っていくことに意識が向いていませんでした。

 

自宅の修繕費や維持費も相当なものです。屋根や外壁の塗装、エアコンや給湯器の交換、固定資産税、庭木の剪定、火災保険など、あらゆるものが高額です。トイレやお風呂も交換時期に入っています。

 

挙句の果てには、自宅のガレージに入ったままの高級輸入車を処分しないばかりか、さらに新しい車を買ったのです。妻Nさんは運転免許を持っていないにもかかわらずです。さすがに見栄だけで浪費はやめたほうがいいと子供たちは忠告しましたが、「お父さんの残した家が落ちぶれていくように見えて嫌」といいはじめ子供たちは渋々認めました。

 

ようやく現金が減っていることに気づいたものの、運が悪く、知人だという自称金融業者の若い男性が架空の投資話を持ち掛けたのです。運用すれば1年で倍になると誘われ、世間知らずの妻Nさんは1,000万円を渡してしまいました。

 

当然ながら連絡がつかなくなり……。子供たちが気づいて警察に被害届を出したものの、お金が戻って来る可能性はほとんどないとのこと……。

 

それでも子供たちには「まだお金は大丈夫だから」と説明しましたが、残っている現金はわずか数百万円のみ。収入は老齢年金と遺族年金の月17万円です。固定費が大きすぎてその収入と貯蓄では生活していくことがきません。

自宅を売却することを勧めたものの

この状態で妻Nさんは一人でFPに相談することに。

 

「金融詐欺に騙されたばかりなのに、また見ず知らずのFPに相談するのはあまりよくないことですよ」とFPが諭すものの、妻Nさんは必死。FPからは今後の対策として次のような選択肢を提案されました。

 

・子供たち2人から生活支援を受ける

・自宅を売却して高齢者マンションに引っ越す

 

これを聞いた妻Nさん、「子供に自分が困っているとバレるのは嫌です。墓場まで持っていく覚悟ですよ。あの怖い息子の嫁がなにをいうことか……」といいます。では、リバースモーゲージなどを使って現金を調達する方法はどうかと提案したところ……「自宅は長男に相続する約束をしているため、動かせません」と答えるのです。

 

「自宅は非常に高額で売却できる可能性があります。老後資金には十分でしょう。これは恵まれているといえます。高齢者マンションに引っ越すと安全で快適に暮らせますよ」とFPがいいます。「それに、現金も生命保険もない状態では、自宅を長男に相続すると次男の遺留分を侵害してしまうことになります。お子様2人はお母様に現金が残っていると思い込んでいるのではないですか?」どうやら、現金がないことを子供たちに告げるつもりはないようです。

 

ランニングコストが高すぎる自宅を所有していると、いくら節約してもわずかな年金と貯蓄では生活は回っていきません。自宅の所有にこだわるのは早くやめたほうがいいのですが、説得しても妻Nさんは受け入れる気はないようです。

 

しかし今後、介護や大病のリスクを大きくなっていき、現金はさらに必要になるはずです。子供たちと率直な話し合いをして、自宅を売却するか生活支援を受けるかを決めるようにアドバイスしたものの、自動車の売却さえしていない状態のまま先送りの状態ですが、破綻まで残された時間は長くありません。