「亡くなった人の年金の4分の3」といったイメージが広がっている遺族年金。実際には受給額の計算や受給条件は非常に複雑です。遺族年金には基礎年金と厚生年金があり、受け取れる金額は加入歴や年齢、そして自分自身の年金の有無など、さまざまな要素によって大きく変わります。
遺族年金は「亡夫の年金の4分の3」と聞いたのに…〈年金月27万円〉72歳夫を亡くした66歳妻、年金事務所で告げられた「信じがたい金額」に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

複雑怪奇「遺族年金」3つの落とし穴

混乱する聡子さんに、「一つひとつ、ご説明しますね」と窓口担当者。

 

遺族年金は大きく、基礎年金に紐づいた「遺族基礎年金」と、厚生年金に紐づいた「遺族厚生年金」があり、前者は子の要件あります。そのため、聡子さんが受け取れるのは、「遺族厚生年金」のみ。計算のベースは、総受給額から基礎年金をのぞいた金額になります。さらに亡くなった夫が繰下げにより増額した老齢厚生年金を受給していたとしても、遺族厚生年金は増額されない65歳時点の報酬比例額で計算した金額。

 

以上のことから、計算のベースになるのは「12万円」ということになります。その4分の3ということは9万円。ただ65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある聡子さんの場合、夫の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、「①死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうの額が遺族厚生年金の額となります。聡子さんの老齢厚生年金は8万円。①は9万円、②は10万円となり、聡子さんが受け取れる遺族年金は月10万円ほどに。

 

「まさか、2分の1……」

 

しかし、ここで終わりません。65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。つまり、自身の年金から遺族厚生年金を引き、余った金額だけ受け取れるというわけです。聡子さんの場合は、10万円から8万円を引いた差額の月2万円ほどが受け取れることになります。

 

何とも面倒くさいルール。一度聞いただけでは、よくわかりません。ただ、受け取れるのは月20万円ではなく、月10万円でもなく、月2万円ほどであることはよくわかりました。

 

申請の結果、聡子さんが受け取れるのは自身の年金月15万円と、亡くなった夫の遺族厚生年金月2万円。「月20万円が10分の1になって、正直がっかりしました。唯一の救いは、遺族年金は非課税だということ。

 

「複雑なルールでぬか喜びさせて、さらに税金もかかったら、やっていられませんよ」

 

遺族年金は4分の3――そんな言葉が1人歩きしてしまい、いざというときに、見込み違いに仰天するケースが後を絶ちません。

 

①遺族厚生年金は、厚生年金だけで計算する

②受給額の計算では、繰下げの増額分は加味しない

③自身の老齢年金が優先され、遺族年金は差額だけが受け取れる

 

以上、3つの落とし穴にはくれぐれも気を付けたいものです。

 

[参考資料]

日本年金機構「遺族年金」