親を想うからこその選択が、時に埋めがたい後悔を生んでしまうことがあります。良かれと思って決めた道が、必ずしも親の心からの望みではなかったとしたら……。多くの人にとって他人事ではない「親の最期の迎え方」とその選択について考えていきます。
お母さん、ごめんね…「老人ホーム」で晩年を過ごした〈年金月15万円〉82歳の母が逝去。遺品整理で見つけた日記の最後の1ページに「56歳のひとり娘」が嗚咽 (※写真はイメージです/PIXTA)

増え続ける「老人ホーム」での看取り…そこに後悔はないか

母・佐藤和子さん(享年82歳・仮名)が暮らした老人ホームの一室を片付けていた鈴木久美子さん(56歳・仮名)。3年前に夫を亡くし、一人暮らしになった和子さん。当初は「1人で大丈夫」と気丈に振る舞っていましたが、次第に物忘れがひどくなり、足腰も弱っていく母を、仕事を持つ久美子さんが一人で支えるのは困難でした。悩んだ末、1年前に老人ホームへの入居を決めたのです。

 

月15万円の年金を鑑みて入居するホームを決定。すべての段取りは久美子さんが行いました。

 

「久美子、ありがとうね。ここなら安心だから」

 

そう言って微笑んだ母の顔を、今でも鮮明に思い出せます。ホームのスタッフは親切で、母も他の入居者と楽しそうに話していると聞いていました。面会のたびに「変わりないよ」と穏やかに笑う母を見て、自分の選択は間違っていなかった、と思ったそうです。

 

しかし、心のどこかでは常に引っかかっていました。母が生まれ育ち、父と自分を育ててくれたあの家。草むしりが大変だからと、ホームに入る前に業者を入れて綺麗にした庭。母は、本当はあの家にいたかったのではないか――。そんな思いが、頭をよぎっては消えていきました。

 

近年、日本において高齢者施設で最期を迎える人は増加の一途を辿っています。厚生労働省『人口動態調査』によると、2023年、老人ホームで亡くなったのは18万1,783人。10年前の2013年と比べると、2.7倍に増えました。高齢化の進展に伴い、死亡者数自体が増えていることはもちろんのこと、看取りに対応する老人ホームが増えたことも増加の一因と考えられます。