突然の別れがもたらす現実は、想像以上に厳しいものです。愛する人を失った悲しみのなか、残された家族には「これからの生活」という新たな課題が突きつけられます。支え合い、未来を切り開くために、私たちはどんな選択肢を持てるのでしょうか。
嘘でしょ…夫(享年48歳)の遺族年金「月14万円」に絶句した45歳パート妻。高校生の娘の〈まさかのひと言〉に涙が止まらない (※写真はイメージです/PIXTA)

「私が働くから…」娘の言葉に、涙が止まらない

美咲さんは、大学進学を目指して塾にも通い、毎日遅くまで勉強に励んでいました。志望校のパンフレットを嬉しそうに眺めていた娘の姿が、明子さんの脳裏に焼き付いています。しかし、今の家計状況で、その夢を叶えてあげられるだろうか。入学金どころか、塾の費用さえも重い負担としてのしかかってきます。

 

そんな母親の苦悩を、高校生の娘は敏感に感じ取っていました。ある晩、明子さんが一人で通帳を眺めながらため息をついていると、背後から美咲さんが静かに声をかけました。

 

「お母さん、私、大学行くのやめようかな」

 

驚いて振り返ると、美咲さんは無理に笑顔を作って続けました。

 

「高校を卒業したら、私が働くから。お母さんを一人で苦労させられないよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、明子さんの目から涙が溢れ、止まらなくなりました。娘の健気な優しさが胸に突き刺さると同時に、親として情けない気持ち、そして夫を失った悲しみが再び込み上げてきたのです。

 

経済的な理由で、子どもの将来の可能性を奪ってしまうことほど、親にとって辛いことはありません。文部科学省の調査(令和3年度子供の学習費調査)では、高校3年間でかかる学習費総額は公立で約154万円、私立では約315万円。さらに大学へ進学すれば、国公立でも4年間で約240万円、私立文系なら約400万円の学費が必要になります。

 

学歴がすべてではありません。しかし、大学で学ぶ経験や、そこで得られる選択肢の広がりが、娘の人生をより豊かにしてくれるかもしれない。その機会を、親の都合で失わせたくない。明子さんは、涙で濡れた顔を上げ、娘の肩を強く抱きしめました。

 

「お父さんも美咲が大学に行くことを楽しみにしていた。あなたはこれまで通り、勉強を頑張りなさい」

 

明子さんは、娘の進学を諦めさせないと心に誓いました。道は険しいかもしれません。しかし、利用できる制度は必ずあるはずです。

 

たとえば、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度には、返済不要の「給付型」と、卒業後に返済する「貸与型」があります。ひとり親世帯で収入が一定基準以下の場合、給付型奨学金の対象となる可能性は十分にあります。

 

また、日本政策金融公庫が扱う「国の教育ローン」は、金利が低く、ひとり親家庭には優遇措置も設けられています。他にも、各自治体が独自に行っている奨学金制度や、ひとり親家庭への支援策もあります。

 

自分の働き方を見直し、収入アップを目指すのも有効な手です。パートから正社員への道を探したり、空いた時間でできる仕事を増やしたり。選択肢は色々とあります。

 

一家の大黒柱を失ったあと、遺族の生活は決して楽なものではありません。しかし、夫が命と引き換えに残してくれたものは、通帳に記された数字だけではないはずです。明子さんは娘の未来を守るために、利用できるあらゆる制度を調べ、前を向いて生きていく決意をしました。

 

[参考資料]

文部科学省『令和3年度子供の学習費調査』