(※写真はイメージです/PIXTA)
「私が働くから…」娘の言葉に、涙が止まらない
美咲さんは、大学進学を目指して塾にも通い、毎日遅くまで勉強に励んでいました。志望校のパンフレットを嬉しそうに眺めていた娘の姿が、明子さんの脳裏に焼き付いています。しかし、今の家計状況で、その夢を叶えてあげられるだろうか。入学金どころか、塾の費用さえも重い負担としてのしかかってきます。
そんな母親の苦悩を、高校生の娘は敏感に感じ取っていました。ある晩、明子さんが一人で通帳を眺めながらため息をついていると、背後から美咲さんが静かに声をかけました。
「お母さん、私、大学行くのやめようかな」
驚いて振り返ると、美咲さんは無理に笑顔を作って続けました。
「高校を卒業したら、私が働くから。お母さんを一人で苦労させられないよ」
その言葉を聞いた瞬間、明子さんの目から涙が溢れ、止まらなくなりました。娘の健気な優しさが胸に突き刺さると同時に、親として情けない気持ち、そして夫を失った悲しみが再び込み上げてきたのです。
経済的な理由で、子どもの将来の可能性を奪ってしまうことほど、親にとって辛いことはありません。文部科学省の調査(令和3年度子供の学習費調査)では、高校3年間でかかる学習費総額は公立で約154万円、私立では約315万円。さらに大学へ進学すれば、国公立でも4年間で約240万円、私立文系なら約400万円の学費が必要になります。
学歴がすべてではありません。しかし、大学で学ぶ経験や、そこで得られる選択肢の広がりが、娘の人生をより豊かにしてくれるかもしれない。その機会を、親の都合で失わせたくない。明子さんは、涙で濡れた顔を上げ、娘の肩を強く抱きしめました。
「お父さんも美咲が大学に行くことを楽しみにしていた。あなたはこれまで通り、勉強を頑張りなさい」
明子さんは、娘の進学を諦めさせないと心に誓いました。道は険しいかもしれません。しかし、利用できる制度は必ずあるはずです。
たとえば、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度には、返済不要の「給付型」と、卒業後に返済する「貸与型」があります。ひとり親世帯で収入が一定基準以下の場合、給付型奨学金の対象となる可能性は十分にあります。
また、日本政策金融公庫が扱う「国の教育ローン」は、金利が低く、ひとり親家庭には優遇措置も設けられています。他にも、各自治体が独自に行っている奨学金制度や、ひとり親家庭への支援策もあります。
自分の働き方を見直し、収入アップを目指すのも有効な手です。パートから正社員への道を探したり、空いた時間でできる仕事を増やしたり。選択肢は色々とあります。
一家の大黒柱を失ったあと、遺族の生活は決して楽なものではありません。しかし、夫が命と引き換えに残してくれたものは、通帳に記された数字だけではないはずです。明子さんは娘の未来を守るために、利用できるあらゆる制度を調べ、前を向いて生きていく決意をしました。
[参考資料]
文部科学省『令和3年度子供の学習費調査』