(※写真はイメージです/PIXTA)
パート帰りの妻が目にした、夫の書斎の「血の気の引く光景」
その日、パートを終えて帰宅した良子さんは、玄関を開けた瞬間、家の中が妙に静まり返っていることに気づきました。いつもならリビングでテレビを見ているはずの浩一さんの姿がありません。そっと2階へ上がると、書斎のドアが少しだけ開いており、中からくぐもったうめき声のようなものが聞こえてきました。
息を殺してドアの隙間から中を覗き込むと――そこで目にしたのは、良子さんの血の気を引かせるには十分すぎる光景でした。パソコンのモニターには、見たこともないグラフが表示されていました。そのグラフは、まるで滝のように垂直に下へと落ちており、画面全体が不吉な赤色に染まっています。浩一さんは、椅子に座ったまま、両手で頭を抱え、がっくりと肩を落としています。良子さんには詳しいことはわかりませんでしたが、ニュースなどでみるようなグラフに、良くないことが起きていることは察しがつきました。
浩一さんは、退職金2,000万円の大半を、知識も経験もほとんどないにも関わらず、投資に注ぎ込んでいたのです。最初はインデックス型の投資信託や値動きの少ない大型株に注目。ビギナーズラックもあり、利益をあげることができました。「もっと増やしたい」という欲にかられ、リスクの高い投資商品に手を出すように。そして評価損が出ると、「何とか取り戻そう」と、明らかに負のスパイラルに陥ってしまったのです。そしてわずか数ヵ月で、大切な老後資金の多くを失ってしまった――という顛末でした。
近年、退職金や相続などでまとまった資産を手にした高齢者を狙った投資トラブルは後を絶ちません。国民生活センターにも、「証券会社の担当者から勧められるままに投資したが、大きな損失が出た」「SNSで知り合った人物に勧められて海外の事業に投資したが、連絡が取れなくなった」といった相談が数多く寄せられています。
退職という大きな人生の節目は、ときに「何か新しいことを始めなければ」「資産を増やさなければ」という焦りを生みがち。結果、安易な儲け話に乗って大損……よくある話ですもし資産運用を考えるのであれば、許容できるリスクをしっかりと把握したうえで行うことが重要です。
【参考資料】
厚生労働省『令和5年就労条件総合調査 結果の概況』
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』
独立行政法人国民生活センター『消費生活相談データベース』