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平均年齢63.6歳…サプライチェーン崩壊の危機
さらに業界が直面している深刻な現実、それは担い手の高齢化です。米卸売業の経営者の平均年齢は63.6歳。全業種の平均を3歳近く上回り、経営者の3人に1人が70歳以上。特にこの傾向は従業員の少ない小規模事業者ほど顕著であり、事業承継は喫緊の課題となっています。
問題は、単に一つの会社がなくなるということにはとどまりません。一軒の町の米屋がシャッターを下ろすことは、長年培われてきた地域社会との関係性、すなわち「あの飲食店は硬めの炊きあがりを好む」「あそこの家庭は子どもが食べやすいように小粒の米をブレンドする」といった、データには現れない貴重なノウハウが失われることを意味します。小規模事業者、日本の米流通における毛細血管として、地域の隅々にまで米を届け、食文化を支えてきた存在。後継者が見つからず、この毛細血管が次々と途絶えていけば、サプライチェーンは確実にその機能を低下させていきます。
この脆弱な構造は、今回の米の品薄問題で一気に露呈しました。在庫が限られるなかで、供給の優先順位が、安定した販売網と購買力を持つ大手に傾くのは避けられない側面があります。その結果、真っ先に仕入れ難に陥ったのが、地域の小規模な卸や小売店でした。「なじみの客からの注文を断るのが一番つらい」という現場の声は、彼らがビジネスの危機だけでなく、地域社会での信頼というアイデンティティの危機にも瀕していることを物語っています。
そもそも日本の米流通は、生産者から消費者まで、複数の卸売業者が介在する多段階構造で成り立ってきました。この構造が非効率で、価格を押し上げる一因だと批判されることは少なくありません。一方で、各段階の事業者が精米や小口配送、在庫管理といった機能を分担することで、複雑な日本の食文化のニーズに応えてきたこともまた事実です。その担い手の多くが高齢化し、事業継続の岐路に立たされている今、この流通システムそのものが崩壊の瀬戸際にあるといってもいいでしょう。
目先の需給バランスが回復したとしても、国内の米消費は減り続け、農家の数は減り、耕作放棄地は増えていく――米に関連する根本的な問題は何も解決されません。この大きな潮流が変わらない限り、再び米騒動は起こる可能性が高いでしょう。
企業努力だけでこの巨大な課題に立ち向かうのは不可能です。生産者が安心して米作りに励めるような、適正な価格形成の仕組みを行政が主導で構築することは最低限の責務。さらにその先を見据え、業界全体でデジタル技術を導入し、生産から在庫、販売までの情報を可視化・共有するプラットフォームを構築することも急務だといわれています。それにより、無駄な中間コストを削減し、需給のミスマッチを防ぐことができるでしょう。これは、大手だけでなく、意欲ある小規模事業者こそが、新たな販路を開拓するチャンスにもなり得るのです。
[参考資料]
株式会社帝国データバンク『米卸業者の動向調査』