スーパーの棚から米が消え、飲食店の「ライス大盛り無料」サービスも姿を消した――。今、日本の食卓を直撃する米価格高騰の裏側には、全国1,822社に及ぶ米卸売業界の知られざる実態がありました。なぜ米が手に入りにくくなったのか。その背景には、業界構造の歪みや担い手不足、そして地域社会と密接に結びついた卸業者たちの苦闘がありました。米流通の最前線で何が起きているのか、その実像をみていきます。
上位2%が市場の半数を占める「米卸売」…日本の食卓を揺るがす「流通崩壊」の危機 (※写真はイメージです/PIXTA)

流通の中間で揺れる米卸業「1,822社」の実像とは

スーパーの棚から特定の銘柄米が消え、飲食店のメニューから「ライス大盛り無料」の文字が消える。私たちの食卓の根幹を揺るがす「令和の米騒動」は、単なる一時的な品不足ではありません。これは、日本の米産業が長年抱えてきた構造的な問題が、生産者の高齢化や気候変動という引き金によって一気に噴出した結果といえるでしょう。

 

その問題を解き明かす鍵は、生産者と消費者をつなぐ「米卸売業」にあります。株式会社帝国データバンクが全国1,822社の米卸を対象に行った調査によると、売上規模で最も多いのは「1〜5億円未満」の693社(38.0%)で、「1億円未満」の小規模事業者も555社(30.5%)と続きます。5億円未満の企業だけで全体の7割近くに達し、中小企業中心の業界構造が浮かび上がってきました。従業員規模で見てもその姿はより鮮明になり、全体の6割以上が「5人未満」で経営されています。代表者一人が仕入れから精米、配達、そして経理までを担うといった、家族経営に近い姿は決して珍しいものではないのです。

 

しかし、市場全体の売上を見ると景色は一変します。売上高「100億円以上」の大手企業はわずか34社、全体の2%にも満たない存在です。ところが、この一握りの企業群が、業界全体の売上高の半分近く(47.5%)を占めています。一部の巨大プレイヤーが市場を支配し、その他大多数の零細事業者がその隙間で厳しい競争を強いられている――そんな極端な寡占構造が見えてきます。

 

この格差は、企業の体力の差となって明確に表れます。事業の競争力を左右する精米工場や倉庫といった設備投資の状況を見ると、売上100億円以上の大手では4社に3社が保有しているのに対し、業界全体では4社に1社の割合まで落ち込みます。最新の精米機で米の食味を最大限に引き出し、大規模な倉庫で安定した在庫を確保し、効率的な物流網で広域に展開する大手。限られた資本のなかで、昔ながらの設備と人的なネットワークを頼りに、地域に密着した商売を続ける小規模事業者。両者の間には、埋めがたいほどの差が広がっているのが実情です。