生活の土台を揺るがす「コメ高騰」。日々の食卓や家計に与える影響は、決して他人事ではありません。今、主食であるコメが手の届かない存在になりつつある現実が、私たちに問いかけるものとは。
2,000円の備蓄米に涙した76歳〈年金月10万円〉の現実。「来月も買える?」安堵の先に見えた〈底なしの不安〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

生活困窮に陥りやすい高齢者…コメの値上がりは死活問題

みそ汁におかずに漬物。たまにご飯、しかも茶碗に1膳はもったいないので、半分くらいに――。そんな生活を続けていたとき、小泉農水大臣の誕生。コメが5キロ2,000円ほどで買えるかもしれない。そんな期待が高まります。

 

そして近くのスーパーで備蓄米が発売されると聞いた田中さん。朝早く並び、整理券を手に入れ、いよいよ5キロの備蓄米を店員から受け取ります。ずっしりとしたその重みが、田中さんには何よりの安心材料でした。

 

「今まで、4,000円以上するおコメをみては買うのを諦めていました。その半額で買えるんだもの……嬉しくて思わずおコメに頰ずりをしちゃいました」

 

家に帰ると、早速、台所へ。丁寧にコメを研ぎ、「備蓄米を美味しく炊く方法」としてテレビで観たとおりにお酒をほんの少し加えて炊飯器にセット。やがて部屋中に甘く、懐かしい香りが立ち込めます。炊きあがった真っ白なご飯。それは、田中さんが久しぶりに見るご馳走でした。お茶碗にご飯を1膳よそい、ひと口、口の中に入れると、なぜか涙が出てきたといいます。

 

「新米と変わらず美味しくてね。なんだろう、ちょっとこの数ヵ月、本当に高くて高くて我慢してきたから……」

 

一杯のご飯が、こんなに美味しいなんて――そんな発見ができたのも価格高騰のおかげね、とプラス思考の田中さんでした。

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、65歳以上の貧困率は20.0%。全世代平均の15.4%を上回ります。また65歳以上男性では12.2%に対し、65歳以上女性の貧困率は22.8%と、貧困に苦しむ高齢女性が多いことがわかります。また厚生労働省『被保護者調査』によると、今年3月、生活保護を受けている人は200万0,090人、164万7,346世帯。そのうち65歳以上の高齢者がいる世帯は90万7,163世帯で、さらに高齢者のおひとり様世帯は84万5,021世帯。全体の51.6%を占めます。高齢者の家計がいかに脆弱か、このことからもわかるでしょう。

 

「モノの値段があがっても、せめておコメだけでもこの値段だったら。また来月も2,000円でおコメが買えるのか……不安は尽きません」

 

日々の生活で精一杯の千代子さんのような高齢者にとって、主食であるコメの値上がりは、家計への直接的な打撃となります。他の何かを切り詰めることで吸収できる範囲を超えた、まさに死活問題といえるでしょう。

 

[参考資料]

総務省統計局『小売物価統計調査(動向編)』

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』

厚生労働省『被保護者調査』