
老後の安心のベースとなる「退職金」だったが…
都内の持ち家で、穏やかなセカンドライフを送っていた田中明夫さん(仮名・66歳)、恵子さん(仮名・63歳)。明夫さんは長年、公務員として地域のために働き、60歳で定年を迎えたあと、65歳まで仕事を続けました。そして恵子さんは専業主婦として一家を支え、コツコツと夫婦の老後を見据えて貯金を進めてきました。そして明夫さんが仕事を辞めてからはこれといった贅沢はせず、明夫さんの年金、月19万円で生活することを心がけていました。質素倹約を心がけていれば、夫婦ふたりで慎ましくも心豊かな老後が送れる……恵子さんはそう信じて疑いませんでした。
ことの発端は、固定資産税の納付書でした。引き落とし口座の残高を確認しようと、恵子さんは普段あまり見ることのない、退職金が振り込まれた銀行の通帳を手に取りました。1年前に確かに印字された「2,800万円」という数字。それが、老後の安心の拠り所でした。
しかし、記帳された最新の残高を見て、恵子さんは我が目を疑います。ページの最後、そこにあるはずの8桁の数字はなく、わずかな端数しか残っていなかったのです。
「……ない。2,800万円が、ない!」
血の気が引くとは、まさにこのこと。心臓が早鐘を打ち、手は震え、何が起きたのか理解が追いつきません。事件か、詐欺か。あらゆる悪い想像が頭を駆け巡るなか、夕方、趣味のウォーキングから帰宅した明夫さんに震える声で通帳をみせました。
「あなた、退職金が、退職金がなくなっているの」
涙声で話す妻に対し、夫の明夫さんは冷静に返します。
「ああ、あれか。心配するな。ちゃんとした使い道だから」
「ちゃんとしたって……何に使ったの!」
「不動産投資だよ。中古マンションを買ったんだ。現金一括でな」
恵子さんは、その言葉に腰を抜かしそうになりました。不動産投資? 何それ? 2,800万円という大金を? あまりに衝撃的な「仰天告白」に、言葉も出ませんでした。