高齢化が加速する日本社会では、親の介護を担う世代もまた高齢化し、「老老介護」が当たり前の現実となりつつあります。働き続けながら家族を支えることの難しさや、経済的・精神的な負担の増大は、もはや一部の家庭だけの課題ではありません。
心が完全に折れました…〈月収25万円〉62歳の定年サラリーマン、〈年金月13万円〉90歳老親の介護に限界 (※写真はイメージです/PIXTA)

激増する介護費用と、老後資金の不安

収入の大幅減。追い打ちをかけるように親の介護。当初は、自宅でできる限りの介護をしようと考えていました。介護保険サービスの利用も検討し、区役所の窓口にも相談に行きました。しかし、認知症の進行が早く、日中の見守りが必要不可欠な状況になってくると、デイサービスだけでは賄いきれなくなりました。だからといって、父親の年金が月13万円程度というなか、上限を超えて介護サービスを利用するにも限界があります。

 

「このままでは、仕事どころではない……」

 

田中さんは、会社での業務中にうっかりミスを犯すことも増え、集中力の低下を痛感していました。無理をすれば、自分の体調を崩しかねない。かといって、会社を辞めて介護に専念すれば、自身の老後に不安が残る――まさに八方塞がりの状況でした。

 

「まさか60代になってから親の介護に悩まされるとは、思ってもみなかった」

 

厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、要介護者と介護者がともに高齢者、いわゆる「老老介護」は年々増加傾向にあります。2001年、ともに60歳以上という組み合わせは全体の64.4%、65歳以上は40.6%、75歳以上は18.7%でした。それから20年ほどたった2022年、その割合はそれぞれ、77.1%、63.5%、35.7%と右肩上がり。高齢者が高齢者を介護する姿は、もはや当たり前です。

 

老老介護の問題点は、介護者と要介護者ともに、身体的、精神的、経済的な負担が大きく、共倒れになるリスクが高い点です。介護者自身も持病を抱え身体的につらくなったり、介護疲れによる孤立感の増大により心を蝕んでいったり、経済的にともに脆弱なため、必要な介護サービスさえ利用を控えたり。それにより、介護者まで支援が必要になったり、介護放棄や虐待につながったり――最悪のケースで終わること珍しくはありません。

 

このような事態に陥らないためにも、必要なのはお金。生命保険文化センターが行った調査によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、平均月8.3万円。在宅介護のために介護用ベッドをレンタルするなど、一時的に要した費用は平均74万円でした。また平均介護期間は平均5年1ヵ月。あくまでも平均値なので、この通り準備したからといって安心というわけではありませんが、目安として知っておきたい数字です。

 

その後、田中さんは在宅での介護は限界と、地域包括支援センターに相談をして、父親を介護施設に入居させることを決めました。

 

「90歳まで住んでいた家ですから、最期までここにいさせてあげたかった。しかし、私には限界だったんです」

 

[参考資料]

厚生労働省『国民生活基礎調査』

生命保険文化センター『2021年度 生命保険に関する全国実態調査』