(※写真はイメージです/PIXTA)
相続という名の「人生の転機」
古い通帳に記された金額を目の当たりにし、健太さんは大きな衝撃を受けました。同時に、今まで漠然としか考えていなかった「相続」という現実が、一気に押し寄せてきたのです。
通帳の存在を告げると、「あーよかった、見つけたんだ」という母の反応。実は、通帳の存在について、母は聞いていたそう。「どこにしまっているかお前にいったら、使ってしまうからって、お父さん、何も教えてくれなかったんだもん」と笑う母。
「ちゃんと隠しておくから、万一のときは宝探しのように楽しんでくれって。本当に見つからなかったら、どうしたのかしら」
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]令和5年調査』によると、24.7%の世帯が「金融資産*はない」と回答。特に20代は36.8%と、3世帯に1世帯はかなり脆弱な家計という状況にあります。
*日常的な出し 入れ・引落しに備えている部分を除く、預貯金、金銭信託、積立型保険商品、個人年金保険、債券、株式、投資信託、財形貯蓄などの金融商品
一方で、相続によりまとまった資産を手に入れるケースは珍しくありません。たとえば、国土交通省の調査によると、注文住宅を購入した人のうち、実に11.9%が家を建てる土地は「相続を受けた」と回答。首都圏に限ると19.7%に上ります。それだけ東京を中心とした大都市圏の“家持ち”は、相続によって富をなしているということ。相続によって人生逆転、というのも夢ではないのです。
だからこそ、相続には仲の良い家族であっても争いはつきもの。遺言がなければ、法定相続人が遺産を分割します。佐藤さん一家であれば、母が遺産の1/2、2人の子どもたちが1/4ずつ。これが法律で決められた分け方ではありますが、そこに「私は介護をしたから、もっと多くもらえる権利がある」「私だって、結構面倒をみたわ」などといった言い争いになる……よくあるパターンです。また遺言があった場合も、「そんなの不公平だ!」と声を荒げる人が出てくるというのも、相続あるあるです。
通帳の発見後、健太さんは相続手続きを進めることにしました。しかし、手続きは想像以上に複雑で、時間と労力を要するものでした。特に、長期間放置されていた預金口座の場合、銀行側で「休眠預金」として扱われている可能性も。休眠預金とは、最終取引日から10年以上経過し、かつ取引が行われていない預金のことを指します。これらの預金は、一定の手続きを経て、公益活動などに活用されることがあります。その額、2021年度末時点で約1,200億円に上るとか。
幸い、発見した預金通帳は休眠預金になることなく、無事、相続財産に。家族間で何ら争うこともなく、遺産分割は終了。相続税の申告も行い、貯金ほぼゼロだった健太さんの預金通帳には、1,000万円をはるかに超える金額が記されています。
急に大金を手にし、散財をするかといえばそんなことはなく、健太さん、キャリアアップを目指し、活動をスタートさせたといいます。
「結婚の予定があるわけではないのですが……私も、父のように遺産を残せる人になりたいと思うようになりました。そのためにも、しっかりと稼げるようにならないと、今のままではいけないと、思うようになったんです」
大金は人を変えるとはよく言ったもの。健太さんも相続を境に、人生は大きく好転したようです。
[参考資料]
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]令和5年調査』
政府広報オンライン『放置したままの口座はありませんか?10年たつと「休眠預金」に。』