離婚に際して取り決められた養育費。しかし、その支払いが滞り、経済的な苦境に立たされる元配偶者と子どもたちは少なくありません。「どうせ訴えられないだろう」と高をくくる未払い当事者もいるなかで、果たして彼らの行動は許されるのでしょうか。
養育費「月9万円」をケチった「月収47万円」45歳バツイチ男の末路…離婚から3年後に届いた「衝撃の通知」 (※写真はイメージです/PIXTA)

養育費の未払い…強制執行以上の大打撃

取り決めしていた養育費の支払いが滞る――珍しいことではありません。養育費を受け取る側は、支払いを請求したり、遅延損害金を請求したりする権利があります。しかし、実際は泣き寝入りをするケースがほとんど。なぜなら、権利はあっても、行使するためにはお金が必要になるから。

 

養育費請求権には時効があり、原則として5年間、裁判所の手続きで決まった場合は10年間となります。支払義務者が養育費を支払わない場合、裁判所に強制執行を申立てることも。差し押さえ命令が発令されれば、給与(手取りの2分の1程度)や預貯金などを差し押さえることができます。しかし、そのために必要になるのが、弁護士費用と実費。着手金、回収額の1~2割程度の報酬金、財産調査費用等……一般的に100万円程度はかかるといわれています。

 

一方、母子世帯の懐は厳しく、前出の厚生労働省の調査によると、仕事による収入は平均236万円。月収にすると20万円を切る程度。そのなかから、強制執行に向けての費用を捻出するとなると、不可能に近いといえるでしょう。そのため、多くの人が泣き寝入りをしてしまうのです。しかし香織さんは違いました。

 

「どうせ諦めるだろう。そう思って音信不通になったのなら、絶対に許せない」

 

香織さんはしっかりと返済する約束をして家族からお金を借り、弁護士に相談。家庭裁判所を通じて「履行勧告」→「履行命令」を経て、ついに「財産の差押え」に至りました。浩一さん、実は再婚が決まり、どうにか前婚のこととは距離を置きたかったという事情、さらに再婚するにあたり色々と費用もかかるため、何とか養育費の支払いを逃れられたらと考えていたそうです。しかし、裁判所から届いた「給与の差押命令通知」で事態は一変。勤務先にも通知が届き、給料から天引きされるかたちで回収されることになったのです。

 

一部上場企業に勤めていた浩一さんにとって、社内での信用失墜は避けられませんでした。人事異動の名目で地方支社に転勤を命じられ、事実上の降格。離婚から3年。「浮気で離婚された」というレッテルも過去の話になりつつあるなかの転落劇でした。浩一さんの再婚がどうなったか――香織さんには関係ありません。それ以上に、再婚を機に養育費の支払いから逃れようと考えていたことにショックを受けました。

 

「私との関係はどうでもいい。ただ息子の父親であることを放棄したことは、本当に許せません」。香織さん、強制執行により未払い分の回収を行ったのち、以降の養育費については何があっても拒否することにしました。

 

「息子の意思を一番には考えますが……これ以上、元夫に父親面をしてほしくないんです」

 

あわよくば……そんな軽い気持ちであったかもしれませんが、養育費の未払いで浩一さんが失ったものは、あまりにも大きいと言わざるを得ません。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』

裁判所『養育費に関する手続』