長年、真摯に生きてきた親が、ある日突然、その生活に異変をきたしたら、家族はどのように向き合うべきでしょうか。老いとともに訪れる変化は、本人だけでなく家族にも大きな戸惑いをもたらします。
絶対に知られたくなかった…〈年金月20万円〉75歳・元教師の父、溺愛の孫さえ断固拒否。45歳娘が涙した「衝撃的な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

認知症と向き合うことへの「恐れ」…人知れず抱えていた父の葛藤

佳子さんの涙を見た瞬間、父・誠一さんの足が止まりました。そしてゆっくりと振り返り、観念したような表情で「……最近な、どうもおかしいんだ」と話し始めたのです。

 

「忘れっぽくなってな。支払いも抜けるようになった。……自分でもわかってる。おかしいと」

 

その言葉を聞いた佳子さんは、すぐに病院の受診を手配。付き添って診察を受けた結果、認知症の初期段階にあるという診断。

 

「わかってたよ、自分でも。そうだろうなって。でも、認知症って言われるのが怖くてな」

 

それは、長年「人の上に立つ者」として真面目に生きてきた父にとって、「自分が壊れていく現実」と直面することへの強い恐れでした。家族を拒んだのも、娘や孫にそんな自分を見せたくなかったから。その背後には、どうしようもない孤独と不安が潜んでいたのです。

 

涙を流しながら佳子さんは、「そんなこと、もっと早く言ってくれればよかったのに……」とつぶやきました。けれど父は、苦笑しながら「それが言えたら、こんなに苦労してないよ」と答えました。

 

65歳以上の認知症患者は2022年推計で433万人。軽度認知症障害は推計599万人で、65歳以上高齢者の27.8%、4人に1人以上を占めます。

 

年を取れば誰もがすぐに思い出すことができなかったり、新しいことを覚えられなかったりするもの。この「加齢による物忘れ」と「認知症」は混同されがち。認知症はごはんを食べたこと自体を忘れるなど、体験したことのすべてを忘れたり、もの忘れの自覚がなかったりなどします。不安感が強くなり、「頭が変になった」と訴えるということも。

 

また認知症の7割弱を占めるとされるアルツハイマー型認知症については、進行を遅らせることが期待される抗アミロイドβ抗体薬による治療も。認知症の早期診断・早期治療につなげるために、家族など、周囲の人も含めて「もしかしたら……」と疑われる症状があるなら、早めの受診が重要となります。

 

「父は今でも頑固で、相変わらず『自分のことは自分でやる』って言い張ります。今は、その気持ちを尊重してあげたいと思っています」と話す佳子さん。週に何回か実家を訪れては、冷蔵庫や郵便受けの確認し、できるだけ「見守る」ことを大切にしているといいます。

 

[参考資料]

政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』