長く続いた「親子の時間」が終わりを告げる瞬間は誰にでも訪れるもの。ただ通常であれば、進学や就職、結婚といったタイミングで訪れるものですが、いつまでも"そのとき”が訪れないのではないか――というケースも。そのような親子関係には大きなリスクも存在しています。
年金月14万円・72歳の母、「この家、売るわ」の衝撃宣告に47歳の働かない息子、絶望。「どう生きていけば…」と途方に暮れる「想定外の決断」 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の決断に「働かない息子」は…

「この家、売ることにした。私は施設に入るから、あんたも自分でなんとかしなさい」

 

突然突きつけられた現実に、雅也さんは絶句したといいます。ただ良子さんにとっては、突然のことではなかったとか。終活を進めていくなか、考えに考えて出した結論だといいます。

 

「最近、膝が痛くて階段を上るのがツラくなってきた。病院の帰りに、自分が倒れたあとあの子はどうやって生きていくのだろうと急に怖くなりました。でもどうしたらいいのか……長いこと、答えを出すことができなかったのです」

 

株式会社終活のまどぐち/終活と相続のまどぐちが65歳以上の男女を対象に行った『65歳以上の終活に関する実態調査』によると、約4分の1が「終活を完了させている/一部進めている」と回答。また終活を進めるうえで直面した課題として「財産や持ち物の整理が大変」(22.8%)、「何から始めたら良いか分からなかった」(17.7%)、「自分の意志を整理するのが難しかった」(15.2%)、「家族と話し合うことが難しかった」(11.4%)などの声が聞かれたように、漠然とした悩みに直面するケースも珍しくないようです。

 

良子さんが直面した雅也さんの将来についての不安。導き出した答えが、「働かざるを得ない状況にする」ということでした。住む場所はない、施設の入居費用を考えると良子さんの収入はあてにできない、自分で働かないと衣食住が叶わない――あえて厳しい状況に追い込むことを決めたのです。

 

「どうやって生きていけというんだよ」

「アルバイトでもなんでもできるでしょ、あなたは健康なんだから」

 

良子さんが決断を伝えたあと、ちょっとした親子喧嘩になったそうです。そこで改めて、雅也さんが派遣先で受けたパワハラによる影響が浮き彫りになったといいます。

 

「息子が受けたことも、もちろん影響は大きかったと思います。それ以上に、私が息子の甘えをずっと受け止めてきてしまったことがいけなかった。息子には悪いことをしてしまった……」

 

後悔を口にする良子さん。だからこそ、息子の自立を促す最後のチャンスと考え、心を鬼にしたという良子さん。何を言われようと、自宅の売却と施設への入居に向けて、淡々と手続きを進めていきました。また雅也さんもこのような状況を前に覚悟を決めるしかなかったといいます。現在、自治体の就労支援窓口に相談に通い、就職支援を受けながら、アパートでの一人暮らしを始めました。

 

「本当に甘い親ですが、アパートを借りるための費用と家賃3ヵ月分は出しました。本当にそれが甘えの終焉です」

 

共依存にある親子。この先、親の介護が必要になったとき、どのように行動すべきか分からなくなる可能性があります。さらに親が亡くなったあと、収入が極端に減ったり、または無収入となり、生活が行き詰まることに。最悪の事態に陥らないよう、共依存であることを受け止め、お互いに精神的な自立を目指し、きちんと境界線を引く――問題解決の第一歩です。

 

[参考資料]

内閣府『令和6年版 高齢者社会白書』

株式会社終活のまどぐち/終活と相続のまどぐちが65歳以上の男女を対象に行った『65歳以上の終活に関する実態調査』