長く続いた「親子の時間」が終わりを告げる瞬間は誰にでも訪れるもの。ただ通常であれば、進学や就職、結婚といったタイミングで訪れるものですが、いつまでも"そのとき”が訪れないのではないか――というケースも。そのような親子関係には大きなリスクも存在しています。
年金月14万円・72歳の母、「この家、売るわ」の衝撃宣告に47歳の働かない息子、絶望。「どう生きていけば…」と途方に暮れる「想定外の決断」 (※写真はイメージです/PIXTA)

実家から出られない息子、「このままでいい」と思っていた日常の崩壊

東京都郊外の一戸建てで、母と息子の二人三脚の生活を続けてきた坂口良子さん(仮名・72歳)。長年専業主婦として家庭を支え、現在は夫に先立たれたあとは、月14万円の年金で暮らしています。一方、47歳の息子・雅也さん(仮名)は、いわゆる「就職氷河期世代」。大学卒業後、安定した職に就けないままアルバイトを転々とし、10年ほど前に無職となってからは、実家で母の収入に頼る生活を続けていました。

 

なぜ実家から出ていかないのか。雅也さんの言い分はこうです。

 

「派遣先でパワハラを受けて、精神的にかなり落ち込みました。それ以来、就職活動をしようという気力が湧かなくなって……。外で働くのが怖いと感じるようになり、母も『無理しなくていい』と言ってくれたので」

 

良子さんも高齢となり、雅也さんがそばにいてくれるのは安心だと思い、「このままでいい」と思ってきたといいます。いわゆる「親子の共依存」ともいえる状態にあります。

 

内閣府『令和6年版 高齢者社会白書』によると、2022年、65歳以上の高齢者がいる高齢者世帯のうち、「親と未婚の子」の世帯は全国で551万世帯。この10年で1.3倍、20年で2倍以上に増えています。このなかには坂口家のように親が生活を支えるかたちで共に暮らし、子どもが経済的に自立できないまま年を重ねていくというケースもあるでしょう。

 

【高齢者世帯の構成割合】

夫婦のみの世帯…882万世帯(32.1%)

単独世帯…873万世帯(31.8%)

親と未婚の子のみの世帯…551万世帯(20.1%)

三世代世帯(7.1%)

その他の世帯…246万世帯(9.0%)

 

周囲からは心配されるようなことがあっても、本人たちは満足し、安定している――そんな坂口家でしたが、その日常はある日突然、終わりを迎えます。