穏やかな老後を夢見ていた夫婦。しかし、子世代との同居が、その計画を大きく揺るがすことがあります。経済的な準備や心のゆとりがあっても、予期せぬ家族の事情が第二の人生の平穏を脅かす可能性を秘めているのです。
「年金月18万円」「退職金2,200万円」年4回の温泉旅が楽しみだった60代夫婦の平穏な老後…39歳次女のUターンで崩壊の危機 ※写真はイメージです/PIXTA

老後の生活設計を狂わせる子・孫との同居

幸せに暮らしていると思っていた次女家族でしたが、話を聞いてみると、まったく違いました。遡ること1年目に麻実さんの夫はリストラで失業。それ以来、働かずに家にいるだけ。育児にも非協力的。麻実さんは家計を支えるためにパートに出るようになりましたが、育児と仕事の両立で限界に達したといいます。

 

「あいつ(=夫)がいないほうが生活が楽」

 

佐藤さん夫婦も、そのような状況であれば離婚も仕方がないと思い、特に反対もしなかったといいます。その後、麻実さんは無事、離婚成立。養育費は期待できなかったので取り決めは行わず、頼れるのは麻実さんの収入だけという状況になりました。

 

麻実さんは10年のブランクを乗り越え、パートから正社員の仕事に。ただ月収は20万円ほどと親子3人が暮らすには十分とはいえない額でした。

 

「もう少し頼ってもいいかな」

 

麻実さんの申し出に佐藤さん夫婦が断るわけはありません。麻実さん親子の次のステップを応援する決心をしました。しかし、穏やかな生活は一変し、朝から晩まで孫娘の世話に追われる日々が始まりました。日中は健一さんと美智子さんが孫の面倒を全面的にみます。麻実さんが帰宅したら、孫の面倒からは解放されますが、そのあとは家事でバタバタ。休日だからといってゆっくりと過ごすことはできず、老後の楽しみだった温泉旅行はいったん中止。美智子さんも自由な時間がなくなり、にぎやかで幸せながら、思い描いていた穏やかな生活を懐かしむことも。

 

「次女は仕事を頑張って、家にもお金も入れてくれているので、経済的な負担はまったくありません。目に入れても痛くないとはよくいったもので、やっぱり孫はかわいい。ただ一緒に暮らしていると、いつでも優しいじぃじ、ばぁばではいられません。特にきつく叱ってしまうこともある。孫との関係が変わってしまうのではないか、そんな不安もあります」

 

厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、2022年、65歳以上がいる高齢者世帯2,747万世帯のうち、3世代世帯は194万世帯で、全体の7.1%。1990年に427万世帯、高齢者世帯の39.5%を占めていたのが、2000年には414万世帯(26.5%)、2010年334万世帯(16.2%)、2019年240万世帯(9.4%)と、一貫して減少傾向にあります。いまやサザエさん的家族は珍しい存在になっています。そこには、現在の高齢者たちが抱えていない悩みや不満があるようです。

 

[参考資料]

厚生労働省『国民生活基礎調査』