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夫婦のささやかな幸せを脅かす「子のUターン」
大卒で就職した会社を勤め上げ、定年退職。悠々自適なセカンドライフを満喫していた佐藤健一さん(仮名・67歳)。年金月18万円と退職金2,200万円を手に、妻の美智子さん(仮名・65歳)と穏やかな毎日を送っていました。
資産形成という言葉が今ほど浸透していなかったときから、将来を見据えてコツコツと貯金と積立投資をしてきた佐藤さん夫婦。2人暮らしには十分すぎるほどの経済的余裕がありました。
そんな夫婦の楽しみは、季節ごとにいく温泉旅行。北は北海道から、南は九州・沖縄まで、日本各地の温泉地を巡る。1回の旅行で、温泉地に1週間以上滞在。温泉の効能を存分に楽しみ、その地のグルメを存分に味わう――現役のころにはかなわなかった、何とも贅沢なひと時が、老後の楽しみになっていました。
しかし、そんな平穏な日々に突然の嵐が訪れます。ある日、美智子さんの携帯電話に次女・麻実さん(仮名・39歳)から電話が入ります。「麻実から電話なんて、珍しい――」と思いながら出てみると、「特に用事はないけど――」と、とりとめもない話だけで、1時間近く話をしたといいます。口が疲れてそろそろ終わりにしようと考えていたとき、ふと「ねぇ、お母さん。私が使っていた部屋、まだ空いているよね?」とひと言。美智子さん、嫌な予感しかしなかったといいます。
それから1週間後、インターホンが鳴り、玄関を開けると、そこにはスーツケースを抱えた次女の麻実さんと、4歳と2歳の孫の姿がありました。「久しぶり」と言いながら、麻実さんらはリビングに上がり込んできました。健一さんと美智子さんは突然のことに驚きつつも、孫との再会に喜びを隠せませんでした。しかし、麻実さんの口から出た言葉は、健一さんと美智子さんの老後の計画を一変させるものだったのです。
「もう、別れることにした。で働かないといけないから、しばらくここにいさせて」
そんなことだろうと思った……美智子さんの嫌な予感は、見事に的中したのでした。