年金の受け取りを「65歳から」始めるか、「繰下げ受給」で遅らせて増額を狙うか――。多くの人が悩むこの選択には、人生設計や家族の状況、健康状態など、さまざまな要素が影響します。実際に繰下げ受給を選んだ男性たちの体験談を通じて、年金受給のタイミングが老後の安心や後悔にどのように関わるのかを考えてみましょう。
もう、あなたとは他人なので…月収54万円〈48歳のサラリーマン夫〉を奈落に突き落とした〈45歳の冷酷妻〉。180日後に起きた「衝撃の結末」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「もう顔も見たくない」と妻は…

都内在住の会社員・佐藤健司さん(仮名、48歳)は、妻・彩香さん(仮名・45歳)と娘と息子との4人暮らし。月収は約54万円で、共働きの妻と合わせた世帯年収としては平均以上で、周囲からは「恵まれた家庭」とみられていたかもしれません。

 

しかしある日、家庭内の空気が一変します。発端は、些細な夫婦喧嘩でした。何度言ってもYシャツを洗濯ネットに畳まず入れてしまう健司さん、話しかけても返事をしない健司さん、学校関連のことについて全部彩香さんに任せっきりの健司さん……「何度言ったらわかるの!」と一方的にまくし立てる彩香さん対し、「いつものこと。無視するのが一番の対処法」とその日はサッサと寝てしまった健司さん。しかし次の日の夜、彩香さんは静かに告げます。

 

「もう、顔も見たくない。この家から出て行って」

 

10年前に購入したマンションは、夫婦共同名義。「出て行けと言われる筋合いなどない――」。そう考えると、腹が立って仕方がなかったと健司さん。次の日には荷物をまとめて家を出て、ひとり暮らしを始めます。

 

「突然追い出されたようなものですよ。でも妻にとっては『とうとう限界が来た』という感覚だったんでしょうね」

 

健司さんは当時をそう振り返ります。彩香さんは「結婚以来、積み重なった不満が爆発した」と後に語っています。

 

別居後、健司さんはウィークリーマンションで独身時代以来のひとり暮らしを始めます。自炊し、洗濯や掃除をすべてこなします。「正直、学生のころに戻ったみたいで楽しかった」といいます。そして「とてつもない解放感を覚えた」とか。ただ気楽な独身生活の再来は、初めの数週間だけのことでした。仕事を終え帰宅しても誰もいないマンションに、孤独感を募らせていきます。

 

特に、子どもたちと会えないことは想像以上に堪えたといいます。「上の子が高校生で、下の子は中学生。いい年なので、会話らしい会話も少ないのですが……いるといないとでは、全然違いますね」。そして自分のなかにあった「家族への依存」と「自分本位の考え方」に気づいていきました。「家事をやってみて初めて、いかに妻に甘えていたかがわかりました。仕事だけやっていれば家庭は回る、なんて思い上がりでした」。

 

一方、彩香さんは冷静でした。 健司さんの別居後も、日常は淡々と続いていきました。朝、給食のない高校生の娘にお弁当をつくり、朝食をつくり、洗濯をしたあと、仕事に出かけます。19時には途中買い物をして帰宅。夕食の準備をして、後片付けをしたら一日が終了。掃除は週末にがっつり行います。健司さんの世話のない生活は「効率的」だったともいいます。

 

「夫のいない生活はすぐに慣れました。もともと期待してなかったから、いなくなったところで特に不便はなかったです」

 

その口ぶりには、冷たさというより割り切りがありました。「夫婦関係はすでに機能していなかった――」。彩香さんにとっては、健司さんの存在は負担でしかなかったのです。