(※写真はイメージです/PIXTA)
「自由」と「真の豊かさ」を手に入れた
田中さんは、退職を決意しました。周囲からは「もったいない」「どうかしてる」と猛反対され、ずっと世話になっていた上司からは「もうすぐ管理職になれたのに」と引き留められたといいます。また長年連れ添った妻・美咲さん(仮名・40歳)も、夫の突然の決断に戸惑いを隠せないようだったといいます。
「妻も最初は理解してくれませんでしたね。大手で安定した収入を捨てて、これからどうするのかと。でもほぼ壊れかけていた私の顔をみて、悟ったといいます。最終的には『そんな顔の父親を見せ続けるのは、子どもたちにもよくない』と、次のキャリアを応援してくれるようになりました」
大手の安定したポジション、そして高収入を捨て、田中さんが選んだのは、これまでの経験を生かしつつも、自分の裁量で働ける非正規の道。業務委託で週4日、1日6時間程度働いています。年収は大きく下がり、300万円程度。しばらく子育てに専念するといっていた妻・美咲さんも仕事復帰して家計を支えています。
田中さんのように、高学歴や高収入といった世間的な「勝ち組」のレールから降りて、「あえて非正規」という道を選ぶ人々は、近年増加傾向にあるといわれています。
総務省『労働力調査』によると、2024年、男性の非正規社員は682万人。そのうち「正規社員の仕事がない」という人は89万人。その他137万人も除いた450万強は、積極的に非正規社員を選んでいます。
【非正規社員である理由】
自分の都合のよい時間に働きたい…32.8%
家計の補助・学費等を得たい…11.3%
家事・育児・介護等と両立しやすい…1.3%
通勤時間が短い…5.0%
専門的な技能等を生かせる…12.0%
正規社員の仕事がない…13.0%
「収入は減りましたが、時間的なゆとりが格段に増えました。朝はゆっくり起きて、コーヒーを淹れながら新聞を読んだり、散歩に出かけたり。もちろん、お金の心配がないわけではありません。でも、工夫次第で豊かな生活は送れます。無理のない範囲で仕事を増やして、稼ぐことだってできます」
「幸せとは?」「何のために働くのか?」――生きることの根本的な問いに対して、キャリアを捨てるという選択をした田中さん。「後悔は一切ありません」と断言します。妻・美咲さんも、「かつてのエリート然とした鋭さは消え、穏やかな笑顔が増えました」と、夫の選択を後押ししたことを悔やんでいないといいます。
ソニー生命保険株式会社が全国の10代~70代に対し行った『生きがい実態調査』によると、全世代の「生きがいと感じること」1~10位、仕事、もしくは仕事に関連することは見当たりません。どうやら「仕事を生きがい」として生きる人は、かなりの少数派のようです。
このようななか、豊かな人生を歩むためにも、「幸せとは?」「仕事とは?」と自問自答してみるといいかもしれません。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』
総務省『労働力調査』