大切な人への想いを託す生命保険。しかし、加入者本人にとって「万一の備え」のつもりでも保障内容を正しく理解していなければかえって誤解や混乱を生む可能性もあります。本記事ではAさんの事例とともに、生命保険の注意点について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が深掘りします。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
長生きしても迷惑がかかる…末期癌を隠しひっそり生きた独身伯母の贈り物。今際の介護を担った45歳姪〈生命保険金1,000万円〉をもらうはずが…くしゃくしゃの「30年前の保険証券」が告げる、理不尽な現実【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

“保険金ゼロ”の悲劇

保険証券を手にしたAさんは、すぐに保険会社に連絡を取り、証券を持参して窓口へ向かいました。しかし、保険会社の担当者からは「申し訳ありませんが、お支払いできる保険金はございません」との返答が。

 

Aさんが驚いて理由を尋ねると、「ご契約の保険は、80歳の誕生日の前日に満期を迎える契約となっています。伯母様は80歳と1ヵ月で亡くなられたため、保障期間外であり、保険金はお支払いできません」との説明がありました。

 

証券を担当者と一緒に確認すると、確かに「満期80歳」と記載があります。

 

伯母はその満期の意味を理解していなかったようです。もしかすると、認知症による影響もあったのかもしれません。「死んだら保険金が出る」と信じていたからこそ、Aさんを受取人に指定したのでしょう。伯母が逓減定期保険に加入していたこと、その保障内容をどれだけ理解していたのか……いまとなっては、知るすべもありません。

 

結局、伯母が遺した財産は、預金通帳の30万円と未支給年金1ヵ月分の15万円のみでした。これらのお金は、葬儀費用やアパートの引き払い費用などでほとんど消えてしまいました。

 

伯母がおひとり様だったことを考えると、万一の際に面倒をかけた人へのお礼として保険に入っていたのだろうと推測されます。あまりにも理不尽な現実に、Aさんは複雑な思いでいっぱいでした。

 

いざというときの備えとして保険は有効ですが、民間の保険には多種多様な商品があります。保険を契約する際は、その内容を十分に理解したうえで加入することがなによりも大切です。

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表