会社員としての人生を終え、ようやく訪れたはずの「自由な時間」。しかし、その新たな日常が思いもよらぬ戸惑いやすれ違いを生むことも少なくありません。定年後に当たり前のように訪れると信じて疑わない老後は、実は当たり前ではないようです。
あなたが家にいるだけで息が詰まりそう…〈退職金3,600万円〉〈年金月21万円〉65歳定年サラリーマン夫、食器を洗いながら呟く妻に戦慄 (※写真はイメージです/PIXTA)

老後夫婦の意識の差…妻「あなたとは別れたい」

定年後、家にいる時間が格段に増えた洋一さん。家事でも手伝うことができればいいのですが、家事力が驚くほど低いことは自覚しています。手伝えばかえって手間がかかる――。以前、恵子さんに怒られたことがあったので、家のこととは一線を引いていました。それは仕事を辞めた今も同じでした。

 

一方、それで家では存在感が薄かった洋一さんが、「ただ家にいる」ことに対して、恵子さんによって大きなストレスになっていたのです。

 

「意味もなく、イライラするんです。1日中、何をするのでもなく、ただパソコンを眺めて何をしているんだか。食事のときもずっと無言だし……美味しいだの、マズいだの、何かいえないのでしょうか」

 

定年前後で夫婦の“ズレ”が生じることはよくあること。なかには物理的に距離を置きたいと考えるケースも珍しくありません。株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『パートナーとの老後生活に向けた意識調査』によると、「パートナーとの老後の暮らし方」として、「パートナー関係を維持しつつ元気なうちから別居したい」と回答したのが5.9%、「パートナー関係を解消したい」が4.6%。夫婦の1割は、「老後は別々の道を歩きたい」と考えています。

 

また各回答の男女割合をみていくと、「パートナー関係を維持しつつ元気なうちから別居したい」は女性が66.7%、「パートナー関係を解消したい」は61.9%。女性のほうが「別々の道」を強く望んでいる傾向にあることがわかります。

 

恵子さんの何気ないひと言に戦慄を覚えた洋一さん。自分ひとりでは生きていけないことは、よくわかっています。

 

「別れを切り出されることだけは避けたい。いるだけでストレスを与えているのなら、妻の目に入らないように、外出しようかと……」

 

できるだけ外出しようと頑張ってみたもの、目的もなく外出するのにも限界があります。「やっぱり『定年後は何をするか』を準備しておけばよかったです」と悔やんだといいます。

 

そんな洋一さんにも変化があったとか。「万一、1人になったときに困らないようにと、料理教室に通いだしました。まずは簡単な料理くらい作れるようになろうかと。最近は下手ながらほんの少しだけ妻を手伝えるようになりました」。妻・恵子さんのストレスも、いくらかはなくなったのではないか、といいます。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『パートナーとの老後生活に向けた意識調査』