「元本保証」「月利10%」――そんなうまい話に、まさか自分が乗るはずがない。多くの人がそう考えています。しかし、老後資金への不安や、信頼できそうな誰かのひと言が、冷静な判断を鈍らせることは、決して珍しいことではありません。
愚かでした…〈年金月20万円〉〈退職金2,200万円〉68歳の元公立中学校の教員、なぜ「元本保証で月利10%の儲け話」を信じたのか。「情けない」「恥ずかしい」を繰り返す (※写真はイメージです/PIXTA)

うまい話に乗ってしまった…68歳元教員の後悔

「愚かでした。こんな見え透いた話にひっかかるなんて。恥ずかしいというより、情けないです」

 

そう語るのは、公立中学校の教員だったという田中一郎さん(仮名・68歳)。現役を引退したあとは、東京都内の自宅で夫婦ふたり暮らし。趣味の麻雀や散歩を楽しみながら、穏やかな老後を送っていました。

 

公務員として地道に働いてきた田中さんは、退職金2,200万円と年金月額20万円を受け取っています。妻がコツコツと進めてくれた預貯金は、3,000万円を超えています。一般的には「安泰な老後」を実現できる水準です。ところが、徐々に減っていく預貯金に焦りを感じるようになります。

 

「年金だけで暮らせないことくらいはわかっていた。だからこそ、地道に資産形成を進めてきた。しかしこれまで増え続けるばかりだった預貯金が、引退後は減っていくばかり。いつか底をついてしまうのではないか――そんな不安ばかりが大きくなっていきました」

 

人事院『令和5年 退職公務員生活状況調査報告書』によると、定年退職した国家公務員のうち、18.2%が「家計は常に赤字」と回答。「時々赤字」は23.3%と、安定の代名詞である国家公務員でさえ、4割強が苦しい家計運営に直面する――何とも大変な時代です。

 

そんなとき、古い職場の知人を通じて紹介されたのが「海外ファンド」でした。営業担当は40代の男性。「インフラ投資に裏付けられた高利回り型商品です。元本保証、月利10%。退職金を眠らせるのはもったいないですよ」と強調されたといいます。

 

田中さんは最初、「怪しい」と思いました。しかし、紹介者が信用できる人物だったこと、さらに「とりあえず少額で試せばいい」といわれ、300万円だけ運用することに。

 

「翌月、実際に30万円が振り込まれたんです。通帳を見て、『本当なんだ』と驚きました」

 

これが判断を狂わせました。田中さんはさらに700万円を追加投入。合計1,000万円をこのファンドに預けることになります。

 

最初の配当以降、運用会社からの連絡は減り、次第に振込も途絶えました。問い合わせると、「市場変動の影響で一時的に配当を停止しております」との返答。その後、運用会社は「評価額が下落しており、一時的な出金制限措置をとる」と通知。

 

最終的に田中さんの出資金は、帳簿上の評価額で10分の1以下になってしまいました。

 

「『元本保証』って言ってたじゃないか、って思いました。しかし、よく見ると、資料のすみに小さな文字で『元本保証ではありません』って書いてあったんです」