わが子が誤った行動をした際、厳しく叱る親をどう思いますか。子どもに対しリーダーシップを行使する親としての権力の重要性が軽んじられているとロバート・キーガン氏は警鐘を鳴らします。本記事では、同氏著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、本当に必要な親の役割を紐解いていきます。
10歳のわが子がドラッグストアで万引き…親は「厳しく叱る」が正解か?【ハーバード大学名誉教授の回答】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「権力を行使する親」の重要性

子どもにはこういう親も必要であることが、先ほどのリストには欠けている――すなわち、信念に基づいて権力を行使し、統制力を発揮し、怒るべきときに怒り、道徳に反する行為に対しては激怒することも辞さない親が(これらはギリシャ人が賛美し、現代アメリカではどの社会層でも甚だしく不足している美徳だ)。「権力」、「権威」、「支配」という言葉に人々はよい印象を持たないし、ペアレンティングという、愛情を何より大切にする領域においてはなおさらそうだろう。だが、10歳の子どもに対する親の愛が効果を発揮するためには、会社の幹部のような機能をしっかり果たす必要がおそらくある。

 

すなわち、信念を持ち、その信念に基づいて行動する人に導かれているという確かな感覚を子どもが持つ必要があると思われるのだ。

 

これはどのような理由からだろうか。発達上、6~7歳から思春期までの子どもは、自分の衝動を管理すること、つまり、自立と自信という新たな手段によってみずからの目標を追求できるよう自分を制御することを、少しずつ学んでいく。その結果、社会的役割(子ども、仲間、生徒)を十分に果たし、社会的機関への参加を楽しめるようになる。これくらいの年齢の子どもは、公正に扱われ、みんなで1つの目標を目指し、わけてもその後の人生において心の拠り所となる行動指針を示してくれる人によって導かれる社会的機関に、溶け込み、承認されることを大いに必要としていると考えられるのである。

 

子どもが所属する最も身近な社会的機関は家族であり、効果的なセルフリーダーシップとは何かについての最も直観的かつ有益な学びを、子どもはこの家族という場で経験するリーダーシップから得ることになる。8歳の子どもがいる家庭では、誰かが明確にリーダーシップを発揮する必要がある。ただしその誰かが8歳の子ども本人であるなどというのは、もってのほかである。

 

権力、権威、支配という言葉に、多くの人がよい印象を持たない。その理由は、1つには、恣意的な権力の濫用(わけても政府や企業における濫用)をあまりに多く目にしてきたせいで、権力の行使はすべて本質的に恣意的あるいは有害だと思うようになってしまっているからである。だが実は、親として権力を行使してこそ、子どものためになる愛情の注ぎ方、リーダーシップの発揮の仕方ができるのだとしたらどうだろう。また、そのような権力の行使には、どの次元の意識が必要なのか。

 

 

ロバート・キーガン

ハーバード大学教育学大学院

名誉教授