厚生労働省が5月に公表した「毎月勤労統計調査(令和6年度分)」の確報値を見ると、平均賃金が上がったという結果になっています。けれども、「そうは言われても生活が楽になった感じはしない」と首をかしげる方も多いのではないでしょうか。数字と体感のズレ――そのギャップの正体を探ってみると、今の日本の労働と暮らしの関係性が浮き彫りになってきます。
(※写真はイメージです/PIXTA)
働き方改革と「時間の価値」
総実労働時間を見ると、前年比で1.2%の減少となりました。企業によってはテレワークや時短制度の導入が進み、いわゆる「働き方改革」がある程度機能してきたともいえます。ただしその一方で、単に労働時間を減らすだけでは、生産性や賃金とのバランスが取れないという現実があります。
労働時間の短縮が収入減少につながるのでは意味がありません。「時短=貧困化」にならないためには、1時間あたりの生産性をどう高めるか、または短時間勤務でも一定の生活ができる賃金構造をどう実現するか。こうした課題への対応が求められます。
令和6年度の勤労統計が示すのは、「数字上の賃上げ」と「実際の生活実感」との間にある、思いのほか大きなギャップです。もちろん賃金は上がっている、それは確かです。しかし、物価上昇がそれを飲み込んでしまっている以上、実質的な意味ではまだ十分とはいいきれません。
日本経済の再生には、単なる統計的な上昇だけでなく、生活者ひとりひとりが「良くなった」と実感できる状況づくりが欠かせません。そのためには、分配のあり方、働き方、そして賃金の質、つまり「どこにどうお金が回っているか」ということを、もっと丁寧に見ていく必要があるでしょう。
[参考資料]