(※写真はイメージです/PIXTA)
増額された年金は「遺族年金」に反映されないというルール
さまざまな手続きのなかで、由美さんは年金事務所を訪れます。遺族年金の請求手続きをするためです。そこで耳を疑う事実を知ることになります。
遺族年金がどれくらい受け取れるのかと尋ねたところ、きちんとした計算ではないものの「月5万円弱」という回答。
「えっ、たったそれだけですか?」
徹さんは、72歳まで繰り下げたことで、58.8%に。単純計算、月32万円ほどになるはずでした。しかし職員の説明では、ざっとまとめると下記の通り。
1.遺族年金の計算において、繰下げの増額分は加味されない=65歳時点の年金額で算出する
2.遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金があるが、今回対象となるのは遺族厚生年金のみ。遺族厚生年金は徹さんの老齢厚生年金で計算するので、月13万円ほどが基準となる
3.遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3。ただし受け取る人が老齢厚生年金を受け取っていた場合は、亡くなった人の老齢厚生年金の2分の1と受け取る人の老齢厚生年金の2分の1を比較して、多いほうが遺族年金額となる。ざっと計算すると9.75万円
4.老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金はその差額が支給される。ざっと計算すると、月4.75万円≒月5万円
何とも難しいルールで、一つひとつ丁寧に説明してくれましたが、一度聞いた限りでは理解できません。とりあえずわかったことは、もし徹さんが生きていれば、月32万円の年金がもらえるはずだったのに、亡くなったら、遺族となる由美さんが受け取れるのは月5万円に満たない遺族年金だけという、何とも残酷な現実。由美さん、なかなか次の言葉が出てこなかったといいます。
「夫は亡くなった瞬間に、存在しないものにされた――そんな気がして、悔しくなりました」
その後、由美さんは自身の年金月12万円に加えて月5万円弱の遺族年金、合わせて月17万円、手取りにすると月15万円ほどを受け取るようになりました。ひとり暮らしの70歳、年金だけでも十分暮らしていける金額です。
「月5万円弱でも受け取れるだけありがたい」
そう思う一方で、少しずつ増えていく年金額に思いをはせ、時折、嬉しそうな笑顔を見せる徹さんが思い出され、今でも苦しくなるといいます。
[参考資料]
日本年金機構『遺族年金』『繰下げ受給』