資産形成や投資が常識とされる時代。中高年世代にとって、その影響はもはや自分ごとにとどまりません。ときに子の決断ひとつで、親の老後設計までもが大きく変わってしまうこともあるようです。
お前のせいで人生が滅茶苦茶だ!「月収80万円」59歳の営業部長、愛妻と描く穏やかなリタイア生活崩壊…原因は「年収1,000万円超え」の30歳エリート息子 (※写真はイメージです/PIXTA)

「家族だから」と差し出した老後資金

「お前のせいで、私たちの人生まで滅茶苦茶だ!」

 

借金の肩代わりを依頼されたとき、思わず大声を出してしまったという聡さん。しかし「私たちは、これまで手をかけすぎたのかもしれない」と後悔の念を抱いたといいます。

 

翔太さんは中高一貫の進学校から一流大学へと進学し、大学在学中には「休学して海外に留学したい」という希望をかなえました。基本的に翔太さんの「したい」「やりたい」という気持ちに寄り添い、経済的な援助を惜しむことはありませんでした。社会に出てからも、彼が望むものを「応援する」という気持ちで支えてきたといいます。

 

樋口さん夫妻はしばし迷いましたが、「いま突き放せば、翔太が立ち直れなくなるかもしれない」と、老後資金の一部を取り崩して息子の借金を肩代わりしました。定年時に受け取れる退職金もあてにしていた生活設計は見直しするしかなく、夫婦で話し合った結果、いったん定年でリタイアすることは中止し、再雇用で働くことを決意しました。

 

「息子の場合、投資のリスクを過少に考えていたことによる自滅。詐欺などではなく、自分たちで何とかできる程度だったことが不幸中の幸いでした。次は絶対に助けることはないときつくお灸をすえて、私たちにとっても息子にとっても、無駄にしないよう気を付けていきたいと思います」

 

聡さんがいうように、昨今、投資トラブルは増加傾向。金融庁によると、令和6年10月1日~同年12月31日、「投資商品等に関する相談」は3,271件で、前年同期比240件の増加でした。商品別では、上場株式に関するものが493件、FXに関するものが379件、投資信託に関するものが137件。また暗号資産(仮想通貨)等に関する相談は1,304件で、前年同期比245件の増加でした。

 

また独立法人国民生活センターによると、SNSで発信される「もうかる話」や、友人・知人経由で勧誘される金融商品に関する苦情が増えており、周囲に相談しないまま大きな損失を被るケースも少なくないといいます。さらに消費者庁の調査では、若年層の6割以上が「SNSなどのネット情報を投資判断の材料にする」と回答。情報の信ぴょう性に不安があるにもかかわらず、実際の投資行動に反映させているといいます。

 

翔太さんのように、「収入は高いが資産運用には未熟」という若者が、誤った判断によって家族に損失を与えることは、決して特異なケースではないといえるでしょう。家族全員で投資リテラシーを高めることも、穏やかな老後を実現させるために必要な対策といえそうです。

 

[参考資料]

金融庁『金融サービス利用者相談室における相談等の受付状況等(期間:令和6年10月1日~同年12月31日)』

独立法人国民生活センター『SNS 上の投資グループで勧誘される詐欺的な FX 取引トラブル』

消費者庁『令和6年版 消費者白書』