「この場所で、ずっと暮らしていけると思っていたのに――」。高齢者が終の棲家として選んだ「老人ホーム」に、安心して住み続けることすら難しくなりつつある今、確実に追い詰められている人たちがいます。
老人ホーム費用が払えません!〈年金月15万円〉81歳女性、ホームで出会った親友から「お金、貸して」と懇願も応えられず…無力感に絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームに入居してできた親友から「まさかの懇願」

さらにこの春、本当にやるせないことが起きた大野さん。ある日、老人ホームで出会った友人である田中さん(仮名・80歳)から、涙ながらに「お金、貸してもらえない?」と懇願されたというのです。

 

田中さんとは同い年で、しかも入居のタイミングがほぼ同じという縁もあり、すぐに仲良くなりました。趣味のガーデニングを通して親交を深め、親友と呼べるような仲だったといいます。

 

「70、80という年齢になって、親友と呼べる人ができるなんて思ってもみなかった。だからこそ、彼女の存在は私にとってすごく大切なものなの」

 

そんな親友から、まさかのお金の無心。やはり田中さんも昨今の物価上昇により困窮していたのです。とても月2万円の値上げには耐えることはできず、退居するしかない。ただできることであれば、ここにいたい――そんな一心で大野さんに打ち明けたのです。

 

しかし大野さんは簡単に首を縦に振ることはできませんでした。何かあったときのために、基本的にお金の管理は長男に任せています。引き落とし以外のお金=毎月のお小遣いは、長男から受け取っていました。自分のお金とはいえ、簡単に引き出せないため、長男に何とかできないか相談。しかし、「お母さんの親友だからこそ、お金の貸し借りはやめたほうがいいんじゃない。それにうちもギリギリだよ」と、真っ当な答えが返ってきました。

 

自分には何もできない無力感、絶望感。結局、費用的に限界と、田中さんは費用感の合う施設へと転居していきました。

 

いつもそばに親友がいる生活を失い、心にぽっかりと穴が――そんな気持ちから抜け出せずにいるといいます。

 

高齢者の住まいとして存在感を増し続けている老人ホーム。ただ費用感のハードルは上がっているのが現状です。たとえば大野さんが入居しているサービス付き高齢者向け住宅、いわゆるサ高住。株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護の調査によると、2018年と2024年の費用感を比べた場合、東京だと、入居時費用が52.6万円から29.4万円にダウン。一方、月額費用は入居時費用ありだと21.0万円から21.7万円、入居時費用なしだと18.7万円から20.0万円にアップしています。またサ高住の場合、介護が必要になると介護サービス費用が加算されるため、費用感に余裕をもって入居する施設を決める必要があるでしょう。

 

いつまで続くかわからないインフレ。老人ホームにおいても、運営を続けるためには値上げは仕方がないことです。一方で、年金はインフレ以上に増えることは望めず。年金への依存度が高い人ほど、「終の棲家と決めていた老人ホームでも退去しなければならない」という事態に直面してしまうのです。

 

[参考資料]

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『サービス付き高齢者向け住宅のトレンドデータ』