(※写真はイメージです/PIXTA)
老人ホームへの入居を告げた母に「仕送りはいつ?」と尋ねる息子
「ごめんなさい、お母さん、施設に入ることにしたの」
森田さんが息子に電話でそう告げると、思いがけない言葉が返ってきました。
「施設? そうか。それで、今月の仕送りは? まだ家賃を払えていないんだ」
森田さんは一瞬、言葉を失いました。
「何をのんきなことを言っているの? 施設に入るにはお金がかかるのよ。もう仕送りなんてしてあげられないんだから」
電話を切った後、情けなさで涙が込み上げてきたといいます。施設に入るにはお金がかかり、これまで通りの仕送りが難しくなることくらい、息子にも分かるはずです。しかし、森田さんの息子はそんな危機感を抱くことなく、仕送りをねだってきたのです。
「もっと早く突き放したほが、あの子のためになったのかもしれない……私が息子の自立を阻んでしまったんです」
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、子に仕送りをしている世帯は全体の3.0%、約165万世帯に上ります。世帯主の年代別に見ると、50代の世帯が7.4%と最も高く、次いで60代が2.6%(26万世帯)、70代でも1.6%(19万世帯)が子に仕送りをしています。少数派ではあるものの、森田さんのような高齢の親が成人した子どもを経済的に支援するケースは珍しいことではありません。
背景には、現在の40代後半から50代前半はいわゆる「就職氷河期世代」であり、厳しい雇用環境に直面した結果、経済的な困難を抱えている人も少なくないという状況があります。厚生労働省の『就職氷河期世代支援プログラム(2023年)』は、この世代の雇用安定と所得向上を目的としています。しかし、依然として非正規雇用率が他の世代に比べて高く、経済的に厳しい状況にある人々がいるのも事実です。ただし、森田さんのケースにおいては、親が子どもに対して過度な経済的支援を行ってきた可能性も考慮に入れる必要があるでしょう。
老人ホームで暮らす森田さんは、「正直ホッとしています。いつまでも親がいるわけではない。大変でも、息子は一人で生きていくしかないのですから」と語ります。親からの仕送りが止まったなか、「生活が大変だ」「お金がない」といいながらも、何とか生活している息子の姿を見ることができたといいます。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』
厚生労働省『就職氷河期世代支援プログラム(2023年)』