介護のために仕事を辞めざるを得ない――そんな選択を迫られる人が、今も後を絶ちません。高齢化が進むなか、家族の介護が原因でキャリアを中断し、介護が終わった後も思うように職場復帰できず、生活基盤を大きく揺るがされる事例が増えています。
人生詰みました…〈月収45万円〉55歳サラリーマン、〈年金月10万円・要介護3〉78歳母を抱え「介護離職」を決心するも、5年後に直面する「まさかの現実」に撃沈 (※写真はイメージです/PIXTA)

親の介護終了後に直面した再就職の高すぎる壁

母を看取ったあと訪れたのは、悲しみと安堵感、そして焦りだったと田村さん。

 

「母が亡くなり、とうとう1人になってしまったという悲しみ。一方で、大変だった介護から解放された安堵感もありました。しかし、今後の生活を考えると、焦りしかありませんでした」

 

要介護で認知症の母との生活。母の年金、月10万円だけで賄うことはできず、少しずつ田村さんの貯金も取り崩していきました。さらに300万円ほどかけて、実家をバリアフリーリフォームも行いました。将来を見据えてコツコツ貯めてきた貯金は、心許ない程度にまで減っていたのです。

 

「また働かないと――」

 

再就職を目指し、再び東京に戻った田村さん。そこで60代の仕事探しの難しさに直面します。ハローワークを通じて応募するも、書類選考も通らないことが続き、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月……その間、貯金はどんどん減っていきます。

 

「面接に呼ばれることはほとんどなかったです。年齢を理由に断られることはもちろん、そもそもひとつの求人にものすごい人が応募しているようで……60代で再就職するのは、本当に難しいことなんだと痛感しました。もう再就職は難しいかもしれない……人生詰んだと思いました」と田村さんは肩を落とします。

 

厚生労働省の調査によると、2023年に介護や看護を理由に退職した人は7.3万人。昨今は、7万~9万人程度で高止まりしている状況が続いています。介護休暇や介護休業などの制度を利用し、仕事と介護の両立を呼びかけているものの、実際に両立させるとなると難しい場合もあり、離職が最善の方法ということもあるでしょう。

 

しかし、そのあとに再就職しようとなると、そこには高い壁が立ちはだかることも。ブランクがあることはもちろんのこと、田村さんのように60代を超えていることが多く、年齢がネックになることが多いのです。再就職の壁を乗り越えるためには、スキルアップや転職市場のニーズに応じた能力を身につける必要がありますが、介護に専念していたため、そのような準備をしていることも珍しいでしょう。

 

さらに仕事が見つからないとなると、経済的にも不安定さが増します。キャリアの中断で資産形成は不十分なことが多く、「働いて収入を得ないといけないのに、仕事が見つからない」と、負のループに陥ってしまうわけです。

 

その後の田村さん、実は親の介護で培った能力を存分に生かしているといいます。

 

「現役時代の経験を生かして再就職できたらと思ったのですが諦めました。その代わりに目を付けたのが、介護職。資格はないので、アルバイトですが、週5日勤務で、月20万円ほどもらっています。5年間、親の介護と向き合ってきましたから、その経験をせっかくだから生かそうと思ったんです」

 

[参考資料]

厚生労働省『雇用動向調査』