老後への不安や将来への備えとして、投資への関心が高まる現代。その裏側で巧妙化する投資詐欺が深刻な問題となっています。SNSや知人からの紹介といった身近な経路を悪用し、一見魅力的な話で人々を陥れる手口は後を絶ちません。本記事ではAさんの事例とともに、投資詐欺手口とその回避策について、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。
終わった…58歳会社員「老後2,000万円プラン」が一夜で崩壊。きっかけは、元同期が見せてくれた「驚愕のスマホの履歴」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

投資セミナーで熱を帯びる“みんなやっている”ムード

Fさんに「友人・知人を紹介してセミナーに行くとお互い1万円もらえるから、一緒に行って帰りに飲みに行こう」と誘われたAさん。「Fも一緒ならまあいいか」と、その後の投資セミナーに参加しました。

 

会場ではスーツ姿のスタッフが丁寧に応対し、高齢者夫婦や会社員風の男性の姿も目立ちました。壇上に上がった「海外ファンドマネージャー経験者」を名乗る男性は、海外の不動産や株式を厳選していると説明。スクリーンには「3年間で資産1.5倍」などの実績や、有名人と写った広告が映し出されます。

 

次第にAさんは、不安よりも「ここで乗り遅れては損かもしれない。まずは始めてみないと……」という気持ちになりました。会場に漂う「みんなやっている」という空気がAさんの背中を押し、まずは10万円を投資。翌月、確かに5%の分配金が振り込まれたため、もう1口追加しました。

 

定期預金で置いておくより、もっとお金を働かせないともったいないと考えはじめたAさん。すると担当者は、「投資金額を増やすと分配金利回りが8%や10%とさらに増えますよ」「当社の基準を満たしたお客様にのみ販売を行っている私募ファンドがあります」と、リスクがあることをさらっと話しながらも「Fさんも購入していらっしゃいます。49名限定ですので早めにご決断ください」と急かすような態度でした。

 

そこでAさんは私募ファンド300万円分の購入を決断。入金してしばらくすると、慌てた様子のFさんから連絡がありました。

会社は雲隠れ、担当者とは音信不通に…

「なんだかおかしいんだよ。業者と連絡が取れない」

 

Aさんも担当者の携帯電話にかけてみましたが、つながりません。会社のウェブサイトにアクセスするも「ページが見つかりません」の文字が。Aさんは「終わった……」と目の前が真っ暗になってしまいました。

 

このような投資詐欺は、決して新しい手口ではありません。むしろ、古くからある「知人を通じた紹介」や「実在の金融機関に酷似した社名」で警戒心を緩めさせる典型的な手法です。

 

私募ファンドは、機関投資家(プロ私募)や50人未満の少数の投資家(少人数私募)を対象に募集しているので、個人の場合は投資経験があることや一定の年収・資産があることを条件にしています。「特別に紹介された」という言葉で、普段は冷静な投資家がこのような詐欺に引っかかることは珍しくありません。

 

では、どうすればこうした詐欺を回避できたのでしょうか。