現代の若者が将来に希望を持ちにくいと感じる背景には、住宅価格や家賃の高騰、物価の上昇、子育て費用の増大といった、複合的な要因が影響していることは否めない。なかでも「こんな不安定な時代だからこそ若者にはよい教育を」と我が子の教育に力を入れる家庭も多い。そのような際、一つの壁となるのが莫大な教育費。本記事では、教育費に関するさまざまな問題から「奨学金」に焦点を当て、Aさん夫妻の事例とともに現状の問題点について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が紐解いていく。
年収順に選考しているのでは?…世帯年収900万円・都内在住40代共働き夫婦、門前払いを受けた「国の機関」に大激怒 (※写真はイメージです/PIXTA)

税金を納めても恩恵を受けられない?“高収入”世帯の怒り

「見た目の年収が高くても、さまざまな税金や社会保険料が差し引かれて、手元に残る額は少ない。政府だってそれはわかっているはずなのに、なぜこのような仕打ちを受けるのでしょうか」と、Aさん夫妻は強い不満を感じている。子供の教育費という人生における重要な局面で支援を求めようとしても、給付型奨学金の申請が門前払いされてしまう現実に憤慨した様子だ。

 

今後、少子高齢化で現役世代の社会保険料負担率は増加していくと予想できる。子育て世帯の家計は一層圧迫されるだろう。

 

親の年収に依らない制度の必要性

Aさん夫妻が切に願うのは、親の経済状況に左右されない奨学金制度の見直しや返済支援である。

 

「奨学金を利用するかどうかの判断は親も関与しますが、返済義務は子供に負わせることになります。経済的・精神的な負担を子供に強いることなく、子供たちが安心して学び、夢に向かって挑戦できる社会の実現を強く望んでいます」とAさんは訴える。

 

教育は国の未来を担う人材を育成するための礎であり、教育機会における経済格差の存在は、社会全体の発展を阻害する要因となりかねない。

 

奨学金の家計基準と社会全体での解決策

日本学生支援機構では、給付型奨学金と貸与型奨学金の対象となる世帯年収のボーダーラインが定められている。たとえば、令和6年度、4人世帯(本人、共働きの親、中学生の弟)の例は以下のとおりである。

 

例1 最も高額な金額が給付される第1区分:総年収が親A221万円、親B115万円

例2 給付額が最も低くなる第4区分:総年収が親A587万円、親B155万円

例3 有利子の貸与型奨学金の場合:世帯の年間の給与収入金額1,250万円

 

家計を圧迫する社会保険料の増加

近年、少子高齢化が進行する日本において、社会保障制度を維持するために社会保険料の引上げは避けられない側面もある。高収入世帯であっても、実際の可処分所得は減少しており、教育費の自己負担は増加している。