随時血糖値と空腹時血糖値は違う

「横田さん、こんにちは。早速ですが、先ほど行った検査の結果からお伝えします。空腹時血糖値が162で、ヘモグロビンA1cが8.5%ですね」

「よかった! やっぱり何かの間違いだったんですね。血糖値って200を超えたらいけないんでしょう? この間の健診結果は193でしたが、検査機器のトラブルか何かだったのかしら。では、これで失礼いたしますね」

「ちょっ、ちょっと……。もう少し横田さんのお体のことを知りたいので、お話を聞かせてもらえませんか?」

「あら、そうなんですか?」

「はい。せっかく来てくださったわけですし、こちらからもお伝えしなくてはいけないことがあります」 

「そうなんですね。糖尿病じゃないとわかれば十分なんですが」

「お気持ちはわかります。ただ、治療して血糖値を下げていくことが、横田さんにとってベストな道かと思います」

「えっ?」

一瞬の間を取ってから、先生ははっきりと言った。

「お話を詳しく伺ってからになりますが、糖尿病の可能性が高いと思います」

「でも、私、太っていないですし……」

「そうですよね。体型の話も含めて、お話をしていきますね」

「……」

「まず、先ほど血糖値が200を超えると……と、いう話がありました。先日の健診は、前日の夜以降何も食べていない状態で測ったものですか?」

「いいえ。午後の健診だったので、朝食を食べてから行きました。お昼ご飯よりは前だったけれど……」

「そうですか。血糖値は1日の中で変動します。食事をすれば血糖値は上がります。そして、食事からの時間の経過とともに下がってくる。そして、また食事で上がるというように繰り返しています。 採血で表示される血糖値は、 その時点のものです。ここまではいいでしょうか?」

コクンとうなずいた。

「横田さんが健診で測ったものは、 『随時血糖値』と呼ばれるものです。詳しく言えば、朝食を召し上がって、昼食前に測ったものなので、 『昼食前血糖値』になります。そして、今日のものは食事をとらずに8時間以上経過した状態で測る『空腹時血糖値』です。昼食前血糖値よりも空腹時血糖値が低いのは当然なんですよ」

「……」

空腹時血糖値が126以上だと糖尿病の疑いという診断基準の1つになります。そして、1~2か月の血糖値の傾向を知る手掛かりになるのがヘモグロビンA1cです。基準値の6.5%を超えているので、糖尿病と診断するのが妥当です」目の前が真っ暗になって、倒れそうになった。

〈先生の処方箋〉

血糖値は測るタイミングによって差がある。

血糖値の高さを指摘されたら、医療機関に相談を

大坂 貴史
糖尿病専門医・指導医
総合内科専門医