〈本記事の登場人物〉

坂田加奈子さん(43歳・女性)

1児の母。職場では課長を務めるワーキングマザー。父が糖尿病を患っていることから健康には気をつけていたが、健診でまさかの「再検査」に。幸い糖尿病ではなかったものの、“糖尿病予備軍”であるという結果にショックを受け、専門医の診察を受けて治療を始める。これまで糖質制限ダイエットをしていた坂田さんは、最初の診察で「主食を積極的に食べるように」という専門医の発言に驚愕。2度目の診察に向け、坂田さんは1ヵ月間の生活改善に取り組む。1日3食ご飯やパンを摂取し、運動は食後に数分だけという生活だったが、検査結果は驚きのものだった。

糖尿病予備軍と自覚した後の日常生活

今すぐ糖尿病治療が開始される覚悟で受診したので、少々拍子抜けもしたが、現段階で糖尿病ではないとはっきりして本当によかった。でも、家族歴があって糖尿病に進むリスクが高いだけに、どうなるかはこれからの生活にかかっている。

私の病状を心配してくれていた両親とも話をした。父は健康診断で糖尿病のサインが出ていたのに、忙しさを理由に医療機関にかかることをしなかったそう。定年後、のどがやけに渇くようになって初めて受診し、インスリン注射しか道はなかったと話してくれた。一時は腎症の心配もあったようだが、今は血糖値の管理がうまくいって、病状は安定している。

若い頃は毎晩のように飲んでいたお酒もあまり欲しくなくなって、すっかり弱くなったようだ。母は医師から中性脂肪値が高いと指摘されているので、食後は両親揃そろって散歩を習慣にしているそうだ。お互いが支えになっていることは、とても頼もしいと思った。

ただ、インスリンのサポートを借りる生活には慣れたけれど、「糖尿病」が世間から“不摂生だった”とか、“生活習慣が悪かった人”というイメージで見られてしまうことは、変わらずつらいとこぼしたことは印象的だった。

私の日常はというと、朝食から変わった。

主食に何を食べるかという問題は、娘のお弁当作りのために、朝、ご飯を炊いているのだから、ご飯を食べたらいいという答えに落ち着いた。

お弁当に詰めて余ったご飯は、いつも保存パックに入れて冷凍している。その一部をおにぎりにして私の朝食にした。

優雅に座って食事をしたいところだが、そんな余裕はない。

行儀がいいとは決して言えないが、おにぎりは台所で食べるワンハンドメニューとして便利なのだ。ただもち麦入りのご飯はポロポロとこぼれやすいので、対策方法を検索したところ、スライスチーズをちぎって混ぜる方法が紹介されていた。マネしてみると、確かにこぼれにくくなった。

常備していたビネガードリンクは、あの日以来、冷蔵庫から姿を消した。

もったいないとは思ったが、けじめとして中身を処分したのだ。

朝食後は普段から座ってなどいなかったので、“食後の立ち歩きルール”を守れている。外食ランチでは、会社に戻るまでに歩く時間を設けられる。

問題は社内で昼食を済ませるときだ。社内で食事をする日は決まって忙しいのだが、ゴミを捨てることを理由に立ち上がり、少し多めにフロアを歩いている。

夕食後の運動のハードルは高い。帰宅してすぐの、立っているのもつらい状態で食事を作り、食べ終わった食器は食洗機に投げ込んで、ソファで脱力する日々だったからだ。最低1分でもという話だったが、1分ってカウントすると意外と長い。

10分ならできるかも……なんてよく言えたものだと反省した。

そして、“甘いもの欲”は消えなかった。

カフェでのオーダーはがんばってブラックコーヒーかラテにしたものの、幾度、甘みのついたドリンクを注文してしまおうと思ったことか。娘と出かけたときには、娘が頼んだホイップつきのココアを一口もらおうともしてしまった。

こんな弱い心で続けられるのかと不安を抱えつつ、2度目の外来に向かった。