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専業主婦の妻「退職金は老後資金として貯めるもの」
今年のゴールデンウィーク、佐藤美代子さん(仮名・65歳)は自宅で静かに過ごす予定でした。夫の克典さん(仮名・65歳)は定年退職を迎え、生活は大きく変わったばかりです。これまで月28万円程度の給与がありましたが、これからの収入は年金のみになります。これから始まる老後は、「いかに年金だけで生活するか」「どれだけ資産を減らさないか」が何より重要だと考えていました。
美代子さんの家計管理は堅実そのものです。月々の生活費は手元のノートに細かく記録し、外食や趣味への出費も最低限に抑えていました。年金受給額は夫婦合わせて月約23万円。貯蓄もありましたが、美代子さんにとっては「決して安心できる額ではない」とのことでした。
総務省『家計調査 家計収支編(2024年)』によると、65歳以上の無職夫婦世帯における月平均支出は25万6,521円。年金月23万円は額面であり、実質は約19万円とのことです。平均的な支出から考えると、佐藤さん夫婦には月6万円ほどの赤字が生じる計算になります。さらに、近年の物価高騰の影響も無視できません。2024年の消費者物価指数(CPI)総合指数は、前年比2.7%の上昇。生鮮食品を除く総合指数は2.5%の上昇でした。
物価高騰以上に年金が増えれば問題ありませんが、現実にはそうはいきません。2025年分の年金支給額は前年比1.9%の増額でしたが、マクロ経済スライドにより実質的には目減りとなります。
美代子さんは、夫の克典さんが60歳で手にした退職金1,800万円を「万一の際の老後の備え」として、できる限り手をつけずに残しておく方針でした。年を重ねるにつれて、病気や介護費がかさみ、施設への入居も検討する必要が出てくるかもしれません。将来の「もしも」に備えておくのは当然のことと考えていました。派手なレジャーや贅沢な外食などは、もう縁がないものと心に誓っていたのです。