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助けてくれ!連絡したのは「10年以上」も口をきいていない息子
一人での生活は、あまりにも過酷でした。買い物も、ゴミ出しもままならず、自分一人ではヘルパーの連絡先も知りません。きっとまた倒れても、誰にも気づかれない――そんな恐怖が襲ってきました。ある日、茂さんはついに観念し、10年以上連絡を取っていなかった長男・和彦さん(仮名・50歳)に電話をかけます。
和彦さんは20年ほど前、家業を継がず婿養子として別の家庭に入りました。それを「裏切り」と感じた茂さんは絶縁同然の態度を取り続けてきたのです。
「親父が自分から電話をしてくるなんて思ってもなくて、正直驚きました。それだけ切羽詰まっていたんですね」
思いがけない連絡に、和彦さんは戸惑いながらも状況を察し、冷静に対応します。すぐに地域包括支援センターに連絡し、ケアマネージャーと連携して介護保険サービスの再構築を進めました。訪問介護やデイサービスの導入が決まり、やっと茂さんの生活環境は安定へと向かい始めます。
在宅介護は家族の協力なしでは成り立ちません。厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、要介護者に対する「主な介護者」は、45.9%が「同居する家族」、11.8%が「別居する家族」です。さらに同居する主な介護者を男女別にみていくと、女性が68.9%。性差によって介護負担には偏りがあります。
また、仕事と介護の両立は難しく、介護離職者は年間約10万人程度。経済的な困窮と精神的な孤立から、「介護うつ」や「介護破綻」に至るケースも少なくありません。子どもに過度な期待を寄せるだけでは、むしろ家族関係を壊してしまうのが現実です。
和彦さんの介入により、わずかではありますが、父と息子のわだかまりは解けたといいます。また由美子さんは距離を置いたままですが、ケアマネージャーを通じて「週に一度だけ、夕食を届ける」という形で最低限の関わりを持つようになりました。
「まさか兄に助けを求めるとは思ってもみませんでした。でも痛い目にあっても、変わらないものですね、人の考え方って」と由美子さん。関わり方を変えたことで、以前よりも余裕をもって父親と対峙できるといいます。物理的にも心理的にも「分担」と「距離」が、かえって家族関係の修復の糸口となったようです。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』