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「親の介護は子の義務」…昭和世代の常識が招いた家族崩壊
「親の面倒は子どもが見るのが当然だ」
78歳の斉藤茂さん(仮名)は、今でもそう信じて疑わないそうです。戦後の高度成長期を生き抜いた世代にとって、親孝行や家族の支え合いは生き方そのもの。しかし、その価値観は、現代の介護現場では深刻なすれ違いの火種にもなり得ます。
妻亡きあと、自宅でひとり暮らしを続けていた茂さんですが、脳卒中の後遺症により要介護1の認定を受けます。日常生活では介助がないとうまくいかないことも多くなりました。そこで長女の由美子さん(仮名・48歳)が実家に戻り、パートで働きながら父の介護に奔走してきたのです。
【要介護1と同居する主な介護者の介護時間】
ほとんど終日…11.8%
半日程度…8.9%
2~3時間程度…12.4%
必要なときに手をかす程度…55.3%
その他…9.9%
不詳…1.8%
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』
食事、排泄、入浴の介助に加え、外出時の付き添い、通院の送迎――あらゆるシーンで由美子さんがサポートします。それにもかかわらず、茂さんは「介護は子の務め」と言い放ち、感謝の言葉もなく、ときに暴言めいた言葉を投げることもしばしばありました。
加えて、茂さんの年金は月9万円ほど。経済的余裕もなく、家の修繕費や医療費も重くのしかかっていました。由美子さんが不足分を立て替えることもしばしば。肉体的にも精神的にも、そして経済的にも、由美子さんの負担は大きく、それはやがて爆発します。
ある日、日用品の買い物を頼まれた由美子さんが「明日でもいい?」と尋ねただけで、「親に口答えするな」と怒鳴られ、口論に。由美子さんは「もう、知るか!」と叫び、荷物をまとめて実家を飛び出しました。
この突然の介護離脱により、茂さんは初めて、自身がどれだけ娘に依存していたのかを思い知らされます。