少子高齢化が進み、自助努力を求められる時代。老後に生活困窮に陥ってしまう人が一定数いる一方で、計画的な資産形成の成果が老後に実を結ぶ人も。しかし、経済的に豊かな老後のなかでも人生に後悔を残すシニアも多いようで……。本記事ではAさんの事例から、CFPの伊藤貴徳氏が老後の本当の豊かさについて深掘りしていきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
俺の人生、一体何だったんだろう…資産1億円・年金月24万円の76歳元部長、入居金数千万円の高級老人ホームに引っ越しも「不幸のどん底」と悔恨の理由 【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「お金」と「心の豊かさ」のバランス

「老後資金に困らないようにしたい」と相談に来られる方は年々増えているように思えます。確かに、長寿社会となったいま、老後資金を十分に準備することは必須条件です。

 

しかし、それだけでは人生の後半を本当の意味で豊かに過ごすことはできません。Aさんの教訓は、まさにこの点でしょう。Aさんは老後になって、仕事を優先して家庭を犠牲にしてきたことを深く後悔しています。

 

娘の発表会も、妻の誕生日も、部下のトラブル対応が優先だったAさん。お金があっても、家族との信頼や絆、思い出の時間は“貯金”できません。人生のなかでなにを優先し、なにに時間とエネルギーを注ぐのか……。これは、金融資産以上に大切な“人生設計”の問いでしょう。

 

Aさんは定年退職後、ぽっかりと空いた時間を持て余しました。趣味もなければ、気軽に声をかける友人も少なかったからです。

 

「現役時代は『暇は贅沢』だと思っていた。でも、いまはその“暇”がなによりもつらい」

 

お金の使い道は“消費”や“投資”だけではありません。趣味や学び、交流にお金と時間を使うことも、将来の心を豊かにする投資です。

 

高級老人ホームに入居し、快適な環境と経済的な余裕を得たAさん。それでも、「幸せだ」とはいえませんでした。彼は、「豊かさとは、“心の通った人間関係”と“生きがい”なんだと、そのためにお金が必要であると。ようやくわかりました。後の祭りですが」と振り返ります。

 

お金は、人生を自由にするための道具であり手段です。その使い道を見誤らないことが、老後に後悔しないための鍵となります。いま資産形成に励んでいる皆さんも、どうかお金以外の資産への意識も忘れずに。バランスの取れた人生設計こそが、将来のあなたを救う最大の備えになります。

 

Aさんのように、経済的に成功しても「心残り」が残る人生は、決して珍しいことではありません。では、私たちはいまからなにを意識すれば、“後悔しない人生”に近づけるのでしょうか? 人生設計のために必要な視点を3つ紹介していきます。